堂場瞬一さん 撮影/矢島泰輔

 130冊以上の著書を持ち、つねに意欲的な新作を発表し続けている堂場瞬一さん。今回の『帰還』の舞台は新聞社だ。三重県四日市の工業地帯で、新聞記者の藤岡が水死する。その通夜に集まった松浦、歩実、本郷は30年前、藤岡とともに四日市支局に新人として配属された「同期」である。藤岡はなぜ四日市に戻り、そして死んだのか? 疑問に感じた3人はそれぞれのやりかたで真相を調べはじめる。

50代だからこそ書ける物語になった

「この連載が始まったとき僕は53歳でしたが、彼らも同じ年齢にしました。新聞社に限らず会社に入って30年たつと、入社時と同じようにふるまえる人は少ないでしょう。人間関係も変わってくるし、子どものことや親の介護などの問題も出てくる。会社員人生の終わりは見えているけど、まだ出世の可能性もあるかもしれないという時期です。結果的に、この年齢じゃないと書けない話になったと思います」

 歩実は広告局の部長、本郷は関連会社の財団に出向。そして、松浦は編集委員である。堂場さん自身も、新聞記者生活を編集委員として終えている。

「編集委員は自分の専門のなかでどんな取材をしてもいいという、天国みたいな立場なんです。普通なら文句はないはずですが、松浦はこのままでいいのかという迷いを感じています。最後まで現場の記者だった藤岡への引け目のようなものがあったのかもしれません。

 藤岡は人がよくて、自然と調整役になっていました。みんなからいろいろ仕事を押しつけられるから、出世もなかなかできない。こういう人がいないと会社が回らないのは事実ですが。

 もっとも、現実には同期のことなんてそんなに覚えていないでしょう(笑)。30年たっても3人がピュアであってほしいという願望を込めて、こういう書きかたをしたんです

 実は新聞社には記者ではない仕事をしている人が多いと、堂場さんは言う。

だから、3人はそれぞれの立場を生かした調査をするんです。ただ、現場の記者だったころに“取材対象にどう会うか”という壁を突破してきた経験が生きている。もっとも彼らは勤務中に本来の仕事じゃないことをやっているわけで、会社からすると、とんでもないやつらですけどね(笑)。

 新聞記者でも刑事でも、誰かに会って話を聞くというのが調査の基本です。だから僕の作品は“インタビュー小説”だと思っているんです