遠慮のない大住の質問

 2日目の夕方、野村さん夫妻には、「ダイアログ」というインタビューが待っていた。その間、子どもたちはスタッフが預かり、夫婦とじっくり語り合う。大住が最も大事にする時間だ。

「おふたりの出会いはなんでしたか?」

 ホテルの部屋で夫婦の前に座り込んだ大住が笑顔で尋ねる。そこには、ふたりの幼少時から家族ができたころまでの「思い出の写真」が置いてある。写真を用意してもらうのは、緊張をほぐすためのディズニーの面接マニュアルのセオリーだ。

 大住の質問には遠慮がない。

「病気がわかったとき、お父さんはどうしました? お母さんは何を思いましたか?」

 そんなストレートな質問に答えながら、夫婦は互いに気づかなかった本音に触れる。

 旅の企画を始めた当初、大住はあるお母さんとホテルのエレベーター前で約40分も立ち話をしたことがある。すると翌日、その母親から「昨夜はぐっすり眠れました」と笑顔で感謝された。そのとき、大住は気づいた。

「難病の子を抱えると、医者にも友人にも夫婦でも言えないことがある」と。ことに母親は、この子を産んだからと自分を責める。誰にも言えない悩みに悶々とする。そういう悩みから少しでも解放されるように、ダイアログは必須のプログラムとなった。

別れ際、母・佑加さんと両手で握手。「今日が始まりですから。これからよろしくお願いします」と大住 撮影/伊藤和幸
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 だが、インタビューは残酷だ。

 本音をぶつけることで、時に夫婦の溝を浮き彫りにするからだ。関係が冷めているケースや、お酒を飲むとDVに走る父もいる。そんなとき大住は相手の胸に割って入る。

「今日からメル友になりましょう。ぼくも一緒に禁酒します。2人でお酒を断ちましょう」そう言って力いっぱい握手し、肩を組む。

 初対面でもずかずかと夫婦の間に踏み込んでしまうのは、大住の熱い性格ゆえだ。夫婦はそんな大住と出会い、いつの間にか胸襟を開く。愚痴ばかり言っていた母。通院や看病で経済的に苦しい家族。気持ちがすれ違っていた夫婦。さまざまなケースがあるが、大住の前で互いの本音を思わず口にすることで、新鮮な気持ちになり、新しい絆も生まれる。

「最後にお父さんからお母さんへ、お母さんからお父さんへ、言葉をかけてください」

 大住はダイアログの最後を必ずこう締めくくる。

 野村さん夫妻の1時間半に及ぶダイアログの最後、夫は妻の前で正座してこう言った。

「いつも大変な看病をしてくれてありがとうございます。下の2人の子に対しても当たり前の幸せが続くように僕も頑張ります」

 妻の瞳にはかすかに光るものがあった。