そのそばでサポートしているのは、大住の部下、小松香織さん。この日を迎えるため、入念な準備を重ねてきた。

「ご家族とは旅行の始まる3か月前から密な連絡をとりあいます。お子さまの症状を把握して交通機関や宿泊機関、トイレの設備など最低6か所と交渉をします。私は大学で福祉社会学を学び、社会福祉士の資格も持っていますが、現実とのギャップがこんなにあるとは思いませんでした」

 入社3年目の小松さんは大学時代に講義に来た大住の話を聞き「ぜひ入社させてください」と懇願したという。

「社会人なのにすごく楽しそうに見えたから」と笑顔で語る。

若者たちも協力、子どもたちに笑顔

 野村さん一家は、二天門から2台の人力車に乗せてもらい浅草周遊を楽しんだ。スタート前には大住とハイタッチを交わし、家族は笑顔満載だ。

 雷門に戻ってくるころには再び半纏姿のえびす屋の若者たちが集まり、ゴール付近の交差点で人力車を待ち伏せる。

「ようこそ浅草へ。和花ちゃん、歩花ちゃん、優里花ちゃん」。若者たちはサプライズで用意したポスターを手に、周囲を歩く人々が振り返るほどの大声で叫び、人力車に駆け寄る。一家はびっくり。うれしそうに顔を見合わせ、照れながら拍手を送った。

好きなキャラクターが描かれたポスターに野村さん一家は大喜び 撮影/伊藤和幸
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 えびす屋のリーダー、井尻延之さんはこう話す。

「お金をとるとかとらないではなく、今この瞬間を全力でやらないと“お客さまに喜んでいただく”という日ごろの仕事が嘘になります。難病の子には次がないかもしれない。手を抜くわけにはいきません」

 えびす屋では、2週間前からポスター作りが始まる。スタッフ全員が星や言葉を必ずひとつは手書きし、家族に喜んでもらうためのアイデアを毎回出し合う。大住の思想が伝染している証拠だ。

 野村さん一家は2日前の午後、東京に着き、翌日ディズニーランドで1日楽しんだ。

 今回、園内で家族をアテンドしたのは、大住や小松さんのボランティア研修を事前に受けた製薬会社の社員たち。日ごろ薬の製造はしても、それを使う患者さんとは触れ合わない社員にとって貴重な機会だ。ここでも大住の精神は伝播する。この企業と契約し、その研修費を得て基本的な活動資金としているのだ。

 和花ちゃんは、倒れる前の夏休み、「ディズニーランドに行きたい」と言っていたという。だが仕事が忙しい父・昌希さんは、「そのうち行こうね」と約束を果たせなかった。昌希さんが振り返る。

「明日は当たり前に来るからいつでも行けると思っていました。目の前にある幸せに気づかなかった」