'07年9月ハワイのサイクリングイベント。自転車は2人共通の趣味だった
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 それを見守る稚子さんに動揺はなかったという。

「こういう言い方はよくないかもしれませんが、夫は何だか楽しそうでした。自分のやりたいことをやっていたからでしょう。よりよく生きたいからと有機野菜を選ぶ人がいるように、夫は流通ジャーナリストとしてよりよく生きたい、よりよくありたいと葬儀の計画をしていったんです」

 それは死への準備ではなく、懸命に生きる姿そのものだった。

「終活というと、みなさん、これから死んでいく準備だと思いがちですが、そうじゃない。周りが死んでいく人と決めつけているだけで、本人は一生懸命、生きているんですよ。私は、一生懸命生きる人を支えたんです」

終活でやるべきことはわずか2つ

 死の数時間前まで雑誌のインタビューを受け、哲雄さんはとことん生き抜いた末、旅立った。

終活ジャーナリストとして、全国で講演を行っている稚子さん

「私は夫が用意してくれたレールに乗って、通夜や葬儀を執り行いました。いわば代行ですよね」

 昨年、七回忌を終えた。現在、稚子さんは“終活ジャーナリスト”として活躍している。哲雄さんの生きざまを支える中で、死がタブー視されることで起こるさまざまな課題に気づいたからだ。意外なことに、稚子さんは終活でやるべきことは、わずか2つだと断言。

命の限りが見えたときに、自分はどう生きたいのかを決めること。そしてお金やものの行方を決めること。私はこの2つで十分だと思っています。なかなか大変ですけどね(笑)」

 とはいえ、2人のように死までの期間を前向きにとらえられるか否かは、夫婦関係にあるという。

「仲が悪かったご夫婦ほど後悔が多いんです。“もっとこうしてあげればよかった”と。逆に夫婦仲がよかった方は、配偶者を亡くしたあと、その後の人生を前向きに生きられていますね」

 恋愛や再婚をする人も珍しくないという。

「夫婦として深く関わった満足感があるから、後悔がないんです。ですから、終活を究極まで突き詰めると、“配偶者と本当に仲よくなること”だと言えますね。仲よくできない相手なら、離婚してもかまわないんじゃないかと私は思います。

 そして夫婦であることにあぐらをかくことなく感謝を伝え、死の前と後はどうしてほしいかもよく話し合う。遺族は故人が何を考えていたかわからないことが、いちばんつらいからです。終活とは、“その時”までの生き方を考えること。よりよく死ぬためには、いま、この瞬間をよりよく生きることなんです


《PROFILE》
かねこわかこ。終活ジャーナリスト。'12年10月に他界した流通ジャーナリスト・金子哲雄氏夫人。『ライフ・ターミナル・ネットワーク』代表。誰もがいつかは迎える“その時”をサポートする活動を行っている