百惠さんだって
普通のひとりの女性

 同書は、プロの作家もうなるような見事なキルト作品だけが掲載されているわけではない。百惠さんが2人の子どものために作ったおそろいのサンタのベストや、夫が仕事場で羽織る半纏(はんてん)なども紹介されている。

「本の題名を『時間の花束』としたのは、現在、過去、未来という“時の流れ”が1冊を読み終えたときにひとつにつながるように構成されているからです。つまり、百惠さんが向き合った家族の歴史が収録されています。夫のため、子どものため、友人のために、キルトを紡いできた彼女の人生は決して特別なものではない。あの百惠さんだって、普通のひとりの女性だということです

 今では素晴らしい技術を身につけたキルト作家のひとりである百惠さんも初めは素人だった。

「有名人ですから誰かに手伝ってもらっているのではないかと勘ぐる人もいると思いますが、百惠さんはすべての作品をイチから自分で作っています。彼女は嘘(うそ)偽りなく、地道にひと針ひと針を紡ぎながら腕を磨いたことで、こんな素晴らしい作品を生み出せるようになったのです

 30年という時間をかけて堅実に続けてきたキルトの修練が、かけがえのないものになっていく──。

百惠さんが家族や友人たちへ思いを馳(は)せながら紡いだキルトは、美しい花のような作品となり、それが集まるとこんな素晴らしい“花束のような作品集”になる。彼女が実直にキルトの道を極めていくという豊かな時間の流れも、その“花束”にまとめられているということを伝えたかったのです。それは、百惠さんだからできたわけじゃなく、どなたでもこんな花束を作ることができる。この本のタイトルには、そんな思いが込められています」