ハンドラーに求められる資質とは

森田さんとアニーが常勤している神奈川県立こども医療センター
森田さんとアニーが常勤している神奈川県立こども医療センター
【写真】ベイリーにぴったりと寄り添うゆづ君

 そういった犬の中から、さらに候補犬が厳しく選抜され、約1~2年に及ぶ専門的トレーニングが行われる。トレーニングは、早ければ生後8週目から開始され、それとともに犬が人間社会に適応するためのたくさんの訓練が公共施設などで行われる。一方のハンドラーも、誰でもなれるわけではない。

 森田さんの所属する団体では、5年以上の臨床経験のある医療従事者(看護師・臨床心理士など)であることが条件。また「ファシリティドッグと対象者(子ども、家族、医療・病院スタッフ)間で円滑なコミュニケーションが図れるように、犬との適切な触れ合い方法を指導できる資質があるか」といった独自の基準により審査される。

「私は、看護大学の卒業論文で、犬と患者の関係についての研究をテーマにしていました。それを職業にするという選択肢はその当時なかったので、普通に看護師をやっていたんですね」

 『シャイン・オン!キッズ』は、日本の小児がんや重い病気を患っている子どもたちとその家族の生活を支援するために特定非営利活動法人『タイラー基金』として2006年7月に発足。その後、団体名称を変更した。

 '08年、団体はファシリティドッグを日本にも導入しようと考え、日本の医療界で動物を取り入れた治療について研究していた大学の先生にコンタクトをとった。

「ものすごい偶然なんですが、その先生が私の卒論を指導してくださっていたんです。誰か小児科経験のある看護師でハンドラーになれそうな人はいないか、ということで私に白羽の矢が立ったわけなんです」

 '09年の6月で看護師を辞職し、秋から森田さんは、ハワイにあるファシリティドッグとハンドラーの育成施設で研修を受け、そして'10年1月から静岡県立こども病院で業務に取り組むようになった。

 自分の足で歩いて手術室まで行けなかった子が、犬のリードを持って手術室まで笑顔で犬と歩いて行き、パニックも起こさなかったということもよくあるらしい。

ただ犬がいればいいというわけではなくて、常に同じ犬だから、信頼関係ができている。“あ、ワンちゃんがいる!”と何も知らない子は言うんだけど、なじみの子たちは“ワンちゃんじゃないよ、アニーだよ”と。その変化が大事なんじゃないかなと思うんですよね。いつも来てくれるお友達にアニーがいるから、怖い処置のときも一緒にいてくれたら頑張れる気持ちになれるのかなと思います」