その後、学校の呼びかけでいじめに対し謝罪の場が設けられたが、主犯である男子生徒の父親は、別の学校の生徒指導の教員だった。そのためか、謝罪を受けた際、学校側は加害生徒の父親に対する配慮を隠さなかった。

「“わざわざご足労いただいて”と言っていました。娘が大人への不信感を抱くのは、学校の対応のためです」(志保さん)

いつ何時も過去の傷を忘れることはない

 桃江さんは周囲の視線に恐怖を感じ、顔を隠したり、マスクをするようになった。診断名は「視線過敏症」。長い髪はゴムで結ばなくてはならない校則のため肩にかからない長さで切りそろえ、顔を覆うようにした。それでも養護教諭から「髪を結べ」と指摘される。

 こうした理不尽さを味わったからか、大人たちへの不信感は募り、閉じこもりがちに。外に出ると、じんましんが出た。

「家にいても、寝ているときも、音楽を聴いていても、(いじめられた体験を)忘れることはないです」

 志保さんによれば、幼いころの桃江さんは、夕食の時間まで家に帰らないような、外で遊ぶのが大好きな子だったという。

「それがいまは、カーテンを閉め切って、暗いほうが落ち着くようです。安心できる状況は何もないです」

 中3になって、桃江さんは岩手から都内へ転校した。だが、そこも安心できる環境ではなかった。

「受け入れ態勢がダメでした。厄介者のように扱われ、桃江に拒絶反応がありました。先生と話すだけでダメなんです。やっぱりここでもダメかって思いました」(志保さん)

 担任は毎日のように家庭訪問へやってきた。しかし、「良心で来ているわけではなく、建前というのがわかりやすかった。接し方でそう思いました。教室で授業を受けられるよう働きかけることには、積極的ではなかった」と、桃江さんは振り返る。

 結局、高校には進学していない。校舎を見たり、制服を着て歩いている高校生を見るだけでも、じんましんが出たり、イライラしてしまうからだ。志保さんと同じ職場で働いていたが、急にパニックになり、倒れたこともある。

 ただ、知り合った男性との間に子どもができた。結婚しないで、シングルマザーとして育てると決心。今年10月3日、男児を出産した。

「同級生の死を経験して命の重みを感じたので、産もうと思ったんです。自分ができなかったから、子どもには学校生活を楽しんでほしい」(桃江さん)