「違うの、これ、ずっとやってるじゃん。見て、今の私。なんにも実ってないの」

 誰もがうらやむ容姿を持ち、あざといテクニックを駆使する田中は32歳で独身。結婚という地点にはいまだ到達していない。あざとさ一筋を貫いた田中を待ち受けていたのは「好きでもない人にモテてもしょうがない」という真理だった。ここで田中は「あざといは付け焼き刃」という名言を残した。

 田中がまさかの自虐ネタを切り出したのが、この番組のクライマックスだった。これを見て私は背筋が凍った。この人はどこまで欲深いんだろう、と思ったのだ。

「あざとさの向こう側」を見た

 テレビ業界という男性社会で評価され、たくましく生きのびるために、田中は「ぶりっ子キャラ」で世に出てきた。この時期には同性からの支持が少なく、「嫌いな女子アナ」ランキングの常連だった。いわゆる「あざとい女」の代表格のように思われていたのだ。

 ところが、フリーになってからは女性人気が高まってきた。美容へのこだわりが明かされ、肌のきれいさや体型の美しさも相まって、憧れの存在として認識されるようになった。女性誌や美容雑誌の表紙を飾るようになり、新しい支持層を確立した。

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 ぶりっ子キャラで男性人気を取り、美容キャラで女性人気を取る。さらに、自虐ネタでバラエティー番組を楽しんで見ている層も取り込もうとしている。

 いわば、「なんにも実ってない」とアピールすることで、自分が器用だからあざといキャラを演じてきたわけではなく、不器用だからこそあざとさにすがるしかなかった、というふうに自らの過去を再解釈してみせたのだ。上から目線と思われがちな自分を強引に下に突き落とす、恐るべきバラエティー対応力である。

『あざとくて何が悪いの?』は、田中みな実という人間のしたたかさを改めて浮き彫りにした。

 あざとさをここまで突き詰めた人はほかにいないし、ここまで語れる人もいないだろう。田中は「あざとさの向こう側」にある人知を超えた世界を見せてくれた。人間ドキュメントとしてこれほど面白いものはない。


ラリー遠田(らりーとおだ)◎作家・ライター、お笑い評論家 主にお笑いに関する評論、執筆、インタビュー取材、コメント提供、講演、イベント企画・出演などを手がける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)など著書多数。