スナックのママが常連客の孤独死を発見

菅野 在宅医療の現場とか見ると、高齢者はすごく手厚い部分ってあるんですよね。高齢者は民生委員さんが把握していますし、介護保険もある。意外かと思われるかもしれませんが、孤独死でも高齢者は行政サービスによって早く見つかることが多い。やっぱり若い人って1回、社会からフェードアウトしちゃうと、もうどこからも手助けされなくて、存在すらないことになって、早く亡くなってしまう。それは非常に危ないと感じます。例えば派遣社員だった40代女性は、お盆の休み期間中に自宅で亡くなって、そのまま半年、放置されていた。

──現役世代で半年見つからないなんて。会社から連絡は来ないんですか?

菅野 ブラック企業に勤めていたり、派遣だったりするとわざわざ家まで訪ねてきたりしない。朝から晩まで休みなく働いて、家で毎日カップラーメンを食べるのを繰り返していると身体は悪くなりますよね。中高年男性の場合は、奥さんが出ていっちゃって、ひとりで残されて……自暴自棄みたいな状態で、お酒やタバコが増えていく。就労環境に加えて、やっぱり離婚とか死別は、ファクターとして大きいですね。特に中年以降の男性は、女性と何らかの理由で別れてから生活の崩壊が起きやすい気がします。

岡本 今の中高年男性に限っては、“妻依存”が多いんですよ。男性同士で友人関係を築くのはすごく難しい。定年退職後の男性で、妻が社会の入り口っていう方は多い。

──妻を失ったらもう社会とつながれない。

岡本 すごく多いですね、本当に。もしかしたら世代的なものかも。ずっと働いてきて、奥さんに地域との付き合いや家の中のことをすべて頼ってやってきたから。

菅野 地域のカフェで社会福祉協議会とか町内会がやっている集いは、ほぼ女の人でおしゃべりしてて楽しそうでいいんですけど、本当に来てほしい肝心の男性はなかなか来ない。これはまずいと思って、私は2か月に1回くらい、夜に要町のバーを貸し切って、お酒を飲みながら孤独死について語り合う「孤独死バー」を開くことにしたんです。こちらは狙いどおりというか、ほぼ男の人しか来ないんです。お酒の要素が入れば男性も重い腰を上げる、ということがわかりました。学生や一般のサラリーマン、中小企業の経営者から、定年後の男性までいらっしゃいます。やっぱりみなさん「孤独死」や「孤独」については思うところがあるみたいですね。お酒が入ると、男性もかなりの本音トークができる。さまざまな世代の交流の場になっています。

岡本 福祉という名目だと、男性は行きにくい。施しを受けるっていうこと自体が嫌な人が多いので。でもスナックっていうと「行ってみるか」となる。スナックを地域にたくさん作るっていうのは、いいんじゃないかと思いますね。

菅野 取材していても、孤独死した男性でスナックのママさんとつながっていたケースはかなり多くて。そういう方は、同じ孤独死でも早く発見されることが多いんです。ママさんって、すごくお客さんを観察していて、「あの人、身体悪いな」とかわかるんですよね。それで心配で訪ねていったら亡くなっていた、と。

 ある70代の男性は、部屋でひとり亡くなったんですけど、親類のつながりを調べていっても、疎遠で誰も出てこない。賃貸住宅の保証人になっていたのは、近所のスナックのママさんでした。「常連だからいいわよ」っていう理由でママさんがなっていたんです。ママさんも近所だったから、男性の様子は頻繁に見に行っていたみたいで。介護サービスも入っていて死後1日で見つかったので、部屋もきれいでしたね。