孤独はどんな人にも訪れる

──今は親子であってもつながりが希薄になっていますからね。根本的に男性はコミュニケーションが、仕事を通してしかできないものなんでしょうか?

岡本 はい。中高年男性にお話を聞いてますと、仕事ならコミュニケーションするけど、それ以外はしたくない、できないって方は多いですね。何か目的がないとコミュニケーションできない。女性はコミュニケーションを目的化してるところあって、ハードルが低いんですけど。あと日本の会社という……私は「孤独養成装置」って呼んでるんですけど。会社で上司部下との縦のコミュニケーションだけやってると、胸を開いた横のコミュニケーションをしにくくなるとか、お互いマウントしてしまうとか、すごく難しい。なかなか友達感覚のコミュニケーションができない。

菅野 それこそ、会社組織の中で1回弾かれちゃうと、本当に孤立してしまう。例えば、某大手企業の中間管理職だった50代の男性は、会社のパワーゲームに巻き込まれて、負けてしまった。結局それで一斉に上司や部下が変わって、男性の派閥の一派が全員、地方に左遷されちゃったらしいんです。男性も子会社に異動になって、そこから心を病んでひきこもるようになって、孤独死してしまったんです。例えば学生時代に不登校になり、10年、20年とひきこもってたっていう方は意外に少ないので、孤独死って人生のちょっとした運によって、誰でも起こりうるのかなって。

岡本 女性でも会社に長く勤めている人は仕事だけの考えになってしまう人も多い。環境によるものも大きいですね。

菅野 女性でも心配な方いますね。営業職で朝から晩まで働いていた40代のバリキャリの女性が後輩からのパワハラ告発を受けて突然、事務職に配置換えされたんです。完全に嫌がらせ人事ですよね。彼女はそこから精神崩壊して、ゴミ屋敷、いわゆるセルフネグレクトになった。ガリガリにやせて、30キロ台まで体重が落ちてしまいました。こういうケースは、特に貧困とか関係ない。人って、早いですよね、崩壊すると。

 私も仕事で大きなミスをしてしまい、落ち込んで、体重が1週間で3〜4キロ落ちた経験があるんです。ゴミも出せなくなり、しばらく食事ものどを通らなかった。短期間で一気にすべてが崩壊しちゃうんだ、と身にしみてわかったんですよ。

岡本 わかる。あっという間。孤独って、誰にでも待っていることですよね。

──本当はいろいろと術があるはずなのに、1回落ちると「もうダメだ!」と思い込んで抜け出せなくなる、という感じでしょうか。

菅野 そうそう。自分の中で完結しちゃう。助けを求めないんですよね。正確にいうと、助けを求められないほどにダメージを受けている。取材していると、孤独死した方は失業、失恋、離婚、病気とか、何かしら人生でのつまずきがあることが多いです。

岡本 孤独って喪失と関連していると言われていて。仕事であるとか、家族であるとか、若さであるとか。何かをなくすことをきっかけに、孤独に陥りやすい。だから、定年退職した男性なんかは、自分の存在価値を喪失した感覚を持つらしいんですね。本当にもう、一歩先に誰にでも待ち構えているテーマなので、イギリスではものすごく孤独に対する関心が高いんですよ。孤独は弱い人のものではなくて、どんな人にも訪れる。それを我慢しろ、っていうのが、日本。乗り越えられる人はいいけど、そうじゃない人ってたくさんいて。

──我慢しろっていわれて、ひとりで抱えて、さらに病んで外と断絶して、誰にも何も言えなくなる。

岡本 まさにそう。悪循環なんですよね。女性は弱っているときは周りについ、言っちゃうんですよ。それでやっぱり救われる人は多い。男性は強くありなさい、誰かに甘えてはいけませんという価値観がまだまだあるので、弱みを見せるのがすごく難しくて、感情を押し殺してアルコールなどに頼ってしまう。海外ではこうした「内にこもる男性の危機」に関心が集まり、対策も講じられているのですが、日本男性のメンタルヘルス対策は、先進国としては考えられないほど遅れているのが現状です。

(後編に続く)

※後編は12月8日17時00分に公開します。


岡本純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション・ストラテジスト。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化を支援するスペシャリスト。グローバルの最先端ノウハウやスキルをもとにしたリーダーシップ人材育成・研修、企業PRのコンサルティングを手がける。これまでに1000人近い社長、企業幹部のコミュニケーションコーチングを手がけ、オジサン観察に励む。その経験をもとに、2018年『世界一孤独な日本のオジサン』(KADOKAWA)を出版。読売新聞経済部記者、電通パブリックリレーションズコンサルタントを経て、株式会社グローコム代表取締役社長。早稲田大学政経学部政治学科卒、英ケンブリッジ大学院国際関係学修士、アメリカMIT(マサチューセッツ工科大学)比較メディア学客員研究員。

菅野久美子(かんの・くみこ)
1982年、宮崎県生まれ。ノンフィクション・ライター。著書に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)などがある。最新刊は『超孤独死社会 特殊清掃現場をたどる』(毎日新聞出版)。また、さまざまなウェブ媒体で、孤独死や男女の性にまつわる多数の記事を執筆している。

(取材・文/小新井知子)