夫婦とは、時間とともにお互いの生活の癖に慣れていく、受け入れていく、歩み寄っていってこそお互いに尊厳のある生活が送れるものです。しかし里美さんのようにそれができず、ましてや暴力まで振るってしまっている場合は、物理的に距離を置いて、干渉しすぎない環境を作ることが望ましいです。

 パパとママがけんかしてばかりで、お嬢さん2人も心に傷を負ってしまっている状態です。里美さん自身も1人で息切れしながら育児を頑張る状況は限界を超えています。実家でご両親に子育てを手伝ってもらえば、少なくとも今の孤独感からは解放されるでしょうし、育児ノイローゼも軽減するでしょう。里美さんも1人で家に閉じこもっているよりも、少し自分の時間を作って外の空気を吸ったほうがいいです。

 全員のために、少しでも早く心穏やかにいられる環境を作るのが最優先です。

 里美さんは頭の片隅のどこかで誰かにそう言ってもらえるのを待っていたかのように、素直に話を受け入れ、1週間もせずして子どもを連れて帰省しました。

 それから1カ月が経った頃、里美さんからメールが届きました。

 メールでは、飲み始めた抗うつ剤に対する眠気症状の不安などが冒頭にありましたが、メンタルクリニックの先生ともきちんとコミュニケーションがとれているので安心ですという報告とともに、

「お陰様で今はイライラもなく子どもたちと穏やかに暮らしています。実家の両親も孫たちと一緒にいられるのがうれしいみたいです。夫とも電話では冷静に普通に話せています。あの生活に戻るのかと思うと自分自身が怖くて仕方がないので、まだしばらくこっちにいようと思っています」とありました。

長期帰省から「別居」へ

 里美さん夫婦は今でも離婚はしていません。ご主人自身、子どもとの関係、家族関係は大切にしたいので離婚を望んでおらず、生活費もしっかり賄っています。「お互いに穏便に暮らせる環境を手に入れた」ということで、お互いが納得しているのです。

 今では、ピアノの発表会や参観日などの子どもの行事のときにはご主人が出向き「通い夫」として家族で楽しく一緒にいる時間を大切に過ごしているそうです。

 もちろん、別居してからは里美さんによるご主人への暴力もなくなりました。

 何よりお嬢さん2人がずっと泣いたり、不安でうろうろしたりという状態がなくなったことを聞いてホッとしました。

「どんな状況であれ、夫婦がそろっていればいい」というものではないのです。「幸せの距離感」というのはその家族それぞれにさまざまなのです。

 DV問題は、決して男性加害者ばかりではありません。

 被害者の身の安全を確保してメンタルセラピーを受けるのももちろん重要ですが、今回の里美さんのように、加害者本人にもぜひセラピーを積極的に受けていただきたいです。

 幼少期のトラウマ、心の整理の仕方、物事を見る角度を少しずつよい方向に変えていく心のプログラムもあります。被害者だけでなく、加害者も同じように心のコントロールを少しでもできるようになると、今より少しだけ生きやすくなるかもしれません。


鈴木 まり(すずき まり)◎生活カウンセラー 日本女性ヘルスケア協会長、株式会社ロサ代表取締役、アーユルヴェーダサロンROSA並びにジョホレッチスタジオを運営。大学・専門学校では心理学を専攻。西洋医学、東洋医学、心理学の広い分野から、カラダ、メンタル、環境、生活全般において年間約600名の女性たちの悩みに接している生活カウンセラーでもある。著書『48手ヨガ~江戸遊女に学ぶ女性ホルモンと体力活性法』(駒草出版)。