もはや映像資料! 寅さんが映す日本

寅さんというキャラクターは作品を通して不変ですが、逆に当時の町並みやファッションといった流行など、移りゆく日本社会の流れは上手に取り入れています。作品を見れば当時の日本の様子がすぐわかりますよ」(石川氏)  

 寅さん映画の細かさはこんなところにも表れている。

「'92年に公開された45作目『男はつらいよ 寅次郎の青春』以降、寅さんの代名詞である啖呵売(たんかばい)シーンには口上がなかったりと、ちゃんと映らないようになるんです。

 その背景には前年の'91年に施行された“暴対法”によって露天商は地元警察に事前に届け出を出さないといけなくなりました。そんな理由で作中では啖呵売を描写しなくなるんですよ」(佐藤氏)

 世相から法律まで、日本の細かなところを映し出す点は映像資料といっても過言ではない!

永遠のマドンナ・リリー誕生秘話

 第11・15・25・48作に加えて特別篇と複数回登場し、寅さんとロマンスを重ねた浅丘ルリ子演じる旅の歌手“リリー”。最新作でも重要な役割を持つほど映画には欠かせないキャラクターだが、実は浅丘の役は企画段階では“北海道で農業を営む未亡人”という設定だったそう。

「初登場の11作目『男はつらいよ 寅次郎忘れな草』の撮影前に山田監督と浅丘さんが打ち合わせで会食していた際に、ふと山田監督が浅丘さんの手を見て“なんて繊細で儚(はかな)げな手なんだろう。これは農場で働く女性の手ではない”と感じたそうです。

 そこから彼女のイメージを膨らませて女性の強さと弱さを兼ね備えたリリーというキャラクターができあがりました。寅さんと同じ各地を旅しているからこそ、最後まで寄り添えたんでしょうね」(佐藤氏)

歴代最多の3回出演、竹下景子のスゴさ

 同じ役で複数回登場した浅丘ルリ子や後藤久美子とは別に、栗原小巻や大原麗子、松坂慶子はそれぞれ2回ずつ別の役で寅さんのマドンナとして起用されている。中でも竹下景子は第32作『口笛を吹く寅次郎』、第38作『知床慕情』、第41作『寅次郎心の旅路』と、3回も別の役でマドンナに選ばれている。

「竹下さんは“寅さんの好み”のタイプだったようですが、『口笛を吹く寅次郎』に出演し、現場で高評価を受けました。その後、『知床慕情』では日本を代表する名優の三船敏郎さんがゲスト出演。

『寅次郎心の旅路』ではウィーンで海外ロケが行われるなど、失敗が絶対に許されない大事な撮影時に、“気心が知れており、勘がいい人”という評価を受けた竹下さんが起用されたんです」(佐藤氏)