優しさを忘れない山田監督の美意識

『男はつらいよ』の全シリーズの脚本を手がけた山田洋次監督。今年88歳を迎えてもなお精力的に映画を製作している。

 そんな監督が、一貫してこだわっているのが“笑い”だった。

「『男はつらいよ』って映画の前に同名のテレビシリーズがあったんですよ。

 映画化にあたって、“テレビと同じ話ならヒットしないだろう”と松竹内では噂されていたんですが、山田監督の脚本を読んだ人、全員があまりの面白さに笑ってしまったんです。それで“これは絶対ヒットする”ってスタッフ全員が思うようになりました(石川氏)

 また、 “どんなつらい境遇でも幸せになることをあきらめない”という共通した人物像も山田作品の特徴。『男はつらいよ』の世界には彼の美意識が流れている─。

浦安も候補だった!? 柴又が舞台のナゼ

 寅さんの舞台である葛飾・柴又。実は初期の企画段階では“主人公の実家は老舗のお団子屋さん”としか決まっていなかった。“昔ながらの趣を残す町並み”を探してロケ地の候補は“西新井”や“浦安”などに絞っていたが、なかなか決まらなかったそう。

1作目の雰囲気を今も残す、帝釈天の参道
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「ある日、山田監督がロケハンのため浦安に行ったもののイメージと違い、以前に知人に案内してもらった柴又帝釈天の参道や江戸川の光景を思い出して足を運んだそうです。そのとき柴又が当時から町並みが変わっていないことに感動した山田監督が“ここなら渥美さんが出てきても違和感がない”と考え、柴又が舞台として決定したのです」(佐藤氏)

 もしかしたら寅さんの故郷は、柴又になっていなかったかもしれないのだ。