死因は心不全とされたが、事件性はないということで、正確な死因ははっきりしないのだが、まぎれもない突然死である。実は、まだ50代に入ったばかりだった。あまりにも予期せぬ死であり、遺族もその死を受けいれられなかったようだった。

 彼が、肉食にこだわる理由は、別にあった。糖質制限ダイエットである。もともと、知り合った時、ぽっちゃり体型であった彼は、それを始めてから、かなりほっそりとなった。何事にも凝り性なのか、アプリを使って糖質を管理して、糖質ゼロに限りなく近い食生活を1年以上にわたって続けていた。

『いきなり!ステーキ』のある店舗で。話題の社長の直筆メッセージは貼り出されていなかった
『いきなり!ステーキ』のある店舗で。話題の社長の直筆メッセージは貼り出されていなかった
【写真】「いきなり!ステーキ」ある店舗からは社長の直筆メッセージがいきなり消え……

 1日の糖質が5グラムでも彼にとっては多いようであった。結局、朝はプロテインのみ。昼は、『いきなり!ステーキ』で1キロ近くのステーキ(しかもつけあわせなし)を食べ、飲み物は炭酸水、夜も外食時はステーキで、自宅では糖質ゼロのロカボ麺などといった食生活だったのだ。また、栄養を補助するためにサプリメントも複数服用していた。

 もちろん、彼の死と糖質制限ダイエット、ひいては『いきなり!ステーキ』中心の食事の因果関係は定かではない。

 銀座TAクリニックの神林由香医師に、糖質制限ダイエットと健康について取材した。

「学会でもまだはっきりとした結論は出ていないのですが、医師は全般的に緩やかな糖質制限に対して肯定的です。2008年に発表された有名な論文で、カロリーを制限しなくても糖質さえ制限すれば体重が減少するという研究結果を示したものもあります。

 老化に関しても、酸化に加えて糖化も老化に繋がることが、近年認識されるようになってきています。血糖値の観点からも食生活全体のバランスにおいて、糖質を控えめにし、急激な上昇を抑えるのが良いというのは、医師の中では共通認識になっています」

 ただし、極度な糖質制限は健康への危険性があるという。

「具体的には1日に20g未満の糖質制限を長期間続ける場合などです。糖分が足りない場合、脂肪やタンパク質から糖を作る仕組みが人の体にはあります。これを糖新生と言います。これは過剰であれば肝臓と腎臓に負担がかかります。さらに、特に基礎疾患がある場合などでは、極度な糖質制限による低血糖が、突然死の原因になる可能性もあります。足りない糖分は、糖新生により作られ血糖値は保たれますが、それが追いつかない場合は低血糖になってしまい、最悪の場合、心不全につながります」

 さらに美容の観点からも、ステーキの食べすぎは脂質や老化物質のとりすぎにつながり、推奨できないという。

 現在、店舗の閉鎖が相次ぐ『いきなり!ステーキ』では、マイルを貯めて得た特典の消化のために肉マイラーたちが押し寄せているという。肉汁したたるステーキは、みんなが大好きな人気料理であることは間違いない。何事もバランス。ステーキとうまく付き合って、健康な生活を送っていきたいものである。