働けと言われても働けない

私は兄とは没交渉です。でも私、こっそり兄のSNSを見ているんですよ。“両親は年をとった”とか“弟は相変わらずぼそぼそしゃべっているらしい”とか書いてる。両親と兄はときどき食事に行ったりしているみたい。私は行かない。会えばどうせ働けと言われるに決まっているから

 没交渉であっても、やはり兄のことは多少なりとも気になるのかもしれない。ただ、働けと言われても働けないと自分では思っている。もちろん自身がいちばん不安なのだ。だから、先のことは意識的に考えないようにしていると淡々と言った。

 幸せにならなくていいと断言するうさみんさんだが、日々を充実させることは拒絶しないだろう。体調が落ち着いて、FXで稼げるようになったらいいのにと心から思う。幸福より充実や満足を優先させる生き方もあるはずだから。

「ひきこもっていつの間にか10年たってしまったんですよね。自分では3年くらいの感覚なんですが」

 うさみんさんはしみじみとそう言った。では10年後、どうしていると思いますかと聞くと、彼はふわっとした表情のまま言った。

「死んでいるような気がする……」


文/亀山早苗(ノンフィクションライター)

かめやまさなえ◎1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、また、女性や子どもの貧困、熊本地震など、幅広くノンフィクションを執筆