ストレスから「耳管開放症」という病に

 ひきこもった当初は昼夜逆転の生活になった。朝7時ごろようやく眠りに落ちて昼過ぎに起き夕方、食事をとる。家の中で親と顔を合わせないよう、ひっそりと生活した。

「1度、私を待ち構えていた父に“今後、どうするんだ”と言われて、大泣きしてしまったことがあるんですよ。それから親も何も言わなくなりました」

 どうしたらいいかわからない。彼自身がいちばん苦しかったのだ。ストレスから、耳管開放症という病にもかかった。耳管というのは通常閉じており、中耳の圧調節が必要なときに開き、速やかに閉じる。ところが何らかの原因でその耳管が開いたままの状態になってしまう。うさみんさんの場合、話している自分の声が脳内に響き渡り、苦痛で話すのがイヤになるという。

「まるで誰かが脳内にいるみたいなんです」

 横になっていれば大丈夫なので、調子が悪いときは寝ていることが多い。手術でも完治するかどうかは不明。治療がむずかしく、それもまた、ひきこもりの原因のひとつになっている。耳栓をするといいのだが、そうすると周りの声が聞こえづらいのだそう。うさみんさんが小さな、なるべく響かないような声で話しているのはそういうことだったのかと合点がいった。

27歳のときに自殺未遂を図る

 自身を取り巻く苦しさから、27歳のときため込んでいた精神安定剤を200錠ほど一気にあおって自殺未遂を図った。100錠で吐き気がしたが、必死に水で流し込んだという。

「致死量には足りなかったんでしょうね。気がついたら意識を取り戻していた。私がそんなことをしているのも親は知らない。その日は1日中、泣いていました」

 その後、昼夜逆転の生活をやめ、今は朝、カップラーメンかコーンフレークなどの食事をとり、夜は母が作ってくれたものをリビングで食べる。

 うさみんさんが自室から出ていくと、父が自室にこもってしまう。父と息子は互いに極力、顔を合わせないようにすることで摩擦を避けているのだろう。

 父はすでに定年退職したが、両親とも午前中はアルバイトをしているので彼が風呂に入るのは午前中だ。まれに両親が旅行に出かけると、「妙に開放的な気持ちになって、意味なくリビングに長時間いたりする(笑)」。

 通常、出かけるのは近所のコンビニ、スーパー、図書館など。

「親は私に、普通に働いてほしいと思っている。男として生きてほしいとも思っている。それはわかっています。無言のプレッシャーを感じ続けていますから。それでもお小遣いをくれて家を追い出さないでいてくれていることに感謝もしている。ずっと毒親だと思っているけど、決して恨んだりはしていないんです」

 親からは月に2万円もらっている。それは、女性ホルモン剤と食べ物、基礎化粧品などに使う。体調の悪さ、精神的な不安定に常に苛まれている状態だが、それを自分から積極的に親に訴えようとは思っていない。そういう苦悩が、彼の繊細で鋭い文章に表れているのかもしれない。

「母は私のトランスジェンダーの件も女性ホルモンを飲んでいることも知っていると思います。でも、あるとき、ユニクロの服がセールになっているチラシを見ながら、“お母さんがこれ買ってこようか”と指さした先には男物の服がありました。本当はもう少し女性っぽい服を着たいけど、親がいるとやりにくいですね」