“人ならざるもの”と遠くなかった

『猫君』では、人間たちの世界にごく当たり前のように猫又が存在しています。

江戸にいる人たちは、人間以外のものが何もいないとは思っていなかったと思うんです。妖(あやかし)がいるんじゃないかな、いてもおかしくないな、ぐらいの意識はあったのでは。

 もしそうならば、かなり長い期間、江戸は続いてきたので、その間に人間と妖の間で折り合いをつけながら過ごしてきたのではないかなと。明治になっても新聞に妖の記事はいっぱい出てますものね。『人魚が捕まった』とか。

 いいの? 新聞がこんなこと書いてって思いますけど。私自身、江戸時代は、“人ならざるもの”は(人間から)遠くなかったと思っているので、人間と共存する猫又がいてもいいかなと思っています。だって病気も鐘馗(しょうき)様に頼るしかなかった世界なので。逆に、“人ならざるもの”が遠かったら困ったんじゃないかな。

 頼れるものも人ならざるもの、神とか仏とか。抗生物質や近代医療がないぶん、より近かった。人ならざるものに人間たちは頼りたいし、実際頼っていたものでもあった。だから、神様だけじゃなくて、妖も近かった。江戸はそういう世界だったのではないかなと思っています

■ライターは見た!著者の素顔
 猫のことを「にゃん」と呼ぶ畠中さん。漫画家さんのアシスタント時代に先生の飼い猫から強烈な猫パンチを食らったことがあるそうです。『猫君』にはいろんな猫の鳴き声が出てきますが、鳴き方の書き分けはと聞くと「各にゃん自己申請で、みなさん自分で鳴いてくれ、みたいな感じです」と微笑されました。本作を書くにあたり、猫を祀っている神社にも足を運んだとのこと。「今戸神社では、みかんと神楽みたいな色をした猫のお守りがあったので買ってきました」


『猫君』畠中恵=著 集英社 1450円(税抜き)※記事内の画像をクリックするとAmazonのページにジャンプします
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はたけなか・めぐみ 高知県生まれ、名古屋育ち。2001年『しゃばけ』で第13回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞してデビュー。病弱な若だんなと摩訶不思議な妖たちがさまざまな事件を解決する同シリーズで2016年、第1回吉川英治文庫賞を受賞。「まんまこと」シリーズ、「つくもがみ」シリーズ、『わが殿(上・下)』ほか著書多数。

(取材・文/ガンガーラ田津美)