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寝込んでいると、枕元にやってきて……

 明らかな「毒母」は問題だが、一見、良妻賢母のように振る舞う「隠れ毒母」も根が深い。子どもに暴力をふるったことなどなく、むしろ教育熱心だったり、資金援助を惜しまなかったりする。そのため娘は「毒母」と気づかないまま同居や世話を始めるが、やがて泥沼にはまってしまう。

 東京都に住む真弓さん(53)は母(80)の援助でマンションを購入、2年前に同居を始めた。彼女の家族4人と母との新生活は順調かと思えたが、次第に亀裂が生じていく。

「母は軽い脳梗塞を患いましたが、後遺症もなく元気です。“100歳まで生きる”と話し、美容や健康に気を配ったりしています。でも、母のパワーとバイタリティーが私にはプレッシャー。何でも仕切りたがり、私や家族を従わせようとするんです」

 例えば、家事。料理をする真弓さんの横に母がいそいそとやってくる。「手伝うわ」と言いながらも「味つけが濃いんじゃない?」「このおかず、マズそうねぇ」、そんなふうにダメ出しされるからたまらない。「じゃあお母さんが作れば」と言い返すとショックをあらわにし、涙ぐむ始末。善意の押し売りは厄介だが、そのうえ被害者ぶられてはますますやりにくい。

 母が繰り出す「マイルール」にも閉口する。例えば「日光を浴びて脳を活性化させる」として、家族全員に早朝からの健康法をすすめてくる。

 自慢話も大好きで「私は何度も海外旅行を楽しんだ」「子どもを立派に育てた」などと過去の栄光を振りかざす。おまけに「それに比べアンタは……」と真弓さんをこき下ろしては、ひとりご満悦だ。

「私は更年期障害で体調が悪いんです。寝込んでいると、母が私の枕元で、イッチ、ニイ、サンと声を出し、ラジオ体操をしてみせる。本人は励ましのつもりだろうし、実際に“私の元気を見習え”と言います。でも私のほうは、母に生き血を吸われているような感覚。こんな生活があと何年続くのかと、苦しくなりますね」