第三者と話し、相談することが大切

 そして、患者や家族が独自に判断せず、試す前には必ず医師・看護師・薬剤師などの医療者に相談をすることも忘れないでほしいと語る

「もちろん、これらの文言が出たら必ず怪しいうそ情報というわけではありません。例えば、がん専門医によっては、患者さんの理解を助けるために3の“免疫力”などの用語を使うこともある。

 しかし、まずは疑い、正確な情報を知る人に必ず確認することが大事ですがん患者さんが自分の大切なお金と時間を、自分や家族のために使うことを切に願います」(大須賀先生)

 前出の轟さんも、「よかれと思っても、安易に“これ、いいらしいよ”と人にすすめたりすること、すすめられた側もそれを鵜呑みにすることをやめましょう」と語る。

 たとえ心からの善意であっても、結果的にその情報に振り回されて、貴重な時間を奪ったり、正しい治療の妨げになることもありうるからだ。また、患者と家族だけでなく第三者と話し、相談することが大切だという。

「国立がん研究センターなどの公的医療機関には、患者や家族の相談や支援センターを紹介してくれる窓口もあります。患者や家族だけで抱え込まず、これらのサービスを積極的に利用することで、正しい情報を知ってほしいですね」

怪しいがん治療を見抜く方法

注意! これらを見つけたら、まず疑う。専門医に相談を! ネット情報や書籍などで謳われる怪しげな宣伝文句。その中で、注意が必要な文言を大須賀先生が8個ピックアップして簡潔に解説してくれた。また、正しいがん情報を知ることができる情報収集先をご紹介!

1.何のがんにでも効く

がん」と同じ言葉がついているだけで、実際はすべて違う病気。全種類のがんに効く治療はない。

2.個人の感想が根拠

 体験談など個人の感想は不正確なことが多い。がんの治療効果は個人差が大きく、正確な評価には数百人規模の検討が必須。個人の感想のみを強調するのは、科学的根拠がないから

3.免疫力を上げる

 免疫力という用語は科学の世界では使用しない極めて曖昧な表現。特定の食品の摂取、特定の生活習慣では、がん細胞の殺傷能力を上げるほど免疫力を上げられないと判明ずみ。科学ではないことの証明。

4.単純な治療方法

「何かの食品を食べるだけ」、「体温を上げるだけ」など、すぐできる単純な方法で治そうとするのは危ない。そんな方法で治る簡単な病気であれば、すでに治っている。

5.オールナチュラル

 天然なら効くとは限らない。がんの治療薬でも自然食品から発見されたものもあるが、それらは「有効成分のみを抽出→その化学構造を少し変える→それを大量に精製→体内吸収がよいように変える」などのプロセスを踏まなければ薬のレベルにはならない。食品そのものというアプローチはあまりに無理がある。

6.極端な宣伝文句

がんが消える!」「魔法の治療」など、そこまで華々しく効く薬はめったになく、普通はがんを縮小させ、拡大や再発を防ぐというものが大部分。極端に効く話には、そんなうまい話はないと疑うこと。

7.有名医師/研究者が推薦

 一般的ながん治療というのは、世界のほとんどの医師・研究者がすすめるもの。ごく一部の人しかすすめないのはおかしい。専門家が勧めると信頼する気持ちはわかるが、日本の現状では信頼できない医師・研究者も多い。

8.医師と製薬会社はグル

 陰謀論は怪しい治療にうってつけの理論。治療が効くという根拠がない場合によく使われる陰謀論はネットでは大変に好まれて拡散される。効果の証拠も提示せず、陰謀論ばかりを取り上げるものには本当に注意が必要

(取材・文/松岡理恵)


お話を伺ったのは……大須賀覚先生
おおすかさとる アラバマ大学バーミンガム校脳神経外科助教授。新薬開発の専門家。筑波大学医学専門学群卒業。日本で脳神経外科医として従事後、基礎研究者へ。正しい医療情報をSNS等で発信し続ける。共著『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった 最高のがん治療』を4月発刊予定。
お話を伺ったのは……轟 浩美さん
とどろきひろみ 2016年、夫の哲也さんから引き継ぎ、スキルス胃がんの患者・家族会「希望の会」理事長に。スキルス胃がんの情報提供や患者・家族の交流会、医師による勉強会・講演会なども開催。'18年から2年間、厚生労働省がん対策推進協議会の委員も務めた。認定NPO法人「希望の会」https://npokibounokai.org/