事務所が再放送を“緩和”するようになる可能性も

 この理由の第一は「面白く新しい番組を作るべき」という局の基本スタンス。また「実はそれほど視聴率がとれない」ことも挙げられる。番組を放送するにあたっては「なぜ今これを放送するのか」というスポンサーの理解を得なければならない。DVDソフトやオンデマンド配信もあるので、そこと競合してしまうという点も。

 また、安易に再放送を選ぶと制作会社にお金が回らず、産業そのものの衰退につながってしまう。契約内容には再放送の回数制限も含まれている場合も多いなどといったリスクが大きすぎるのだ。

 だが今、このコロナ禍で現在、多くのドラマが再放送されている。『BG~身辺警護人~傑作選』(テレ朝系)『コウノドリ傑作選』(TBS系)『野ブタ。をプロデュース 特別編』(日テレ系)など、各局、過去のヒット作を持ち寄ったかたちだ。

 ここでも、「芸能事務所との関係」重要になってくる。

ドラマの再放送が行われると、そこに出演していた俳優さんたちにギャランティが発生する場合があります。最初の契約時の10%が振り込まれたり、放送の回数によってギャラが発生したりと契約書によってさまざまですが、所属タレントを新たな作品にどんどん出演させたいというスタンスは局側と同じ。そこには“その役者の過去ではなく今をみてほしい”という意図があります。

 たとえば『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)などは、誰もが知っていて再放送の需要も高いドラマですが、それぞれのキャラクターのイメージも強い。名作であればあるほど“役者と特定の役柄が結びついてしまう”ことや、“昔のほうがよかったと言われる”ことを恐れて、再放送に消極的になる事務所も多いと聞きます。

 これにより再放送はハードルの高い状態が続いていました。しかし、このコロナ禍が続くと、『新作が作れないなら再放送のギャラだけでもほしい』と考える事務所が出て来てもおかしくない。もしかしたらこれを機に、事務所側が再放送の放映ハードルをゆるくしていく可能性はゼロではない」(芸能プロ関係者)

 変化が起こりそうなのは再放送問題だけではない。前出のテレビディレクターによると制作側の“働き方”が変わるかも、との見方もあるという。

「視聴者が求めていることをやりたい、新しいことをやりたい……そんな気概のある若手テレビマンは大勢いる。例えば星野源さんがSNSで発信した『うちで踊ろう』のムーブメント。あのような仕掛けがテレビでもできればなどと考えているのです。ただ上層部は慎重で、変化を求めたがらない。だが通常通りではいかない状態が続いているため、上層部も変わらざるを得なくなるかもしれない」

 と希望を語り、さまざまなエンタメ界の“タブー”が壊れ、新たなコンテンツが生まれる可能性があると示唆する。

 ちなみに、フジテレビドラマ以外にもアニメ『ワンピース』を夕方に再放送するなど子どもへのサービスも。夕方帯にアニメが放送されるのは久しぶりで、これを機会に『ワンピース』に初めて触れる子どももいそうだ。

 フジテレビ広報局は「フジテレビでは、出演者やスタッフの安全を最優先に考え、ごく小規模の関係者で感染防止対策を十分講じられる番組以外のロケや収録を控えておりますが、その一方で、このような状況だからこそ、少しでも楽しんでいただける良質なエンターテインメント番組を皆様にお届けしたいとも考えております」と前を向いたコメントも添えてくれていた。

 ピンチをチャンスに変えるという言葉がある。外出自粛で仕方なくつけたテレビに「あれ、意外とテレビって面白いじゃん」と気づく人も多いと聞く。世界的に大変な状況ではあるが、かと言って下ばかり向いていても何も解決はしない。不満も不安もあるだろう。だがこれを機に“壁”を壊し、新たな道を見出そうとする気概は必要だ。そしてそれは、テレビ界に限った話ではない。

(衣輪晋一/メディア研究家)