支援側がイメージする“居場所”は画一的なプログラムになりがちだが、当事者が興味を持てることを探り当てて共にやってみることが、何より重要だという。

「図書館や駅の待合室で過ごしたい人もいれば、喫茶店が好きな人もいます。ある社会福祉協議会の方が対応したケースで、コーヒーをよく飲む当事者がいたそうです。相談を受けるうちに“街のカフェ巡りをしましょうか”という話をしてみると“行きたい”というので、一緒に地域のカフェを散策したところ、落ち着くカフェを見つけたといいます。

 その方にとっては、行く先々のカフェが居場所になっただろうし、最終的に“心が安らぐ”と感じるお店を見つけ通っているうちに、そこで働くことになったそうです」

当事者の“特性”に合わせた対応を

 このように、就労につながる場合もあるかもしれないし、そうではないかもしれない。しかし「その時間が大切なんです」と池上さんは続ける。

「支援側のリソースが足りず、どうしても情報提供をして終わりになってしまうことが多いと思いますが“当事者と一緒に動けるかどうか”が極めて重要。実際、前述のカフェ巡りを提案した福祉協議会の方も“あいつは昼間から喫茶店でサボっている”と通報されないか、ヒヤヒヤしていたそうです。それでも、何かチャンスがあれば当事者もそれを逃したくない気持ちはあるはずですから、“やってみたい”と答える可能性は十分にあると思います」

 前述のケースの場合は無事、自分に合った職場に落ち着けたが、実際は当事者が仮に就労を望んだとしても、社会復帰を阻む壁がいくつも存在する。そのひとつが“キャリアの空白問題”だ。

「履歴書に1〜2年の空白があると、そこで突っ込まれてしまいます。当事者たちは真面目で嘘をつけない人が多いので、例えば“ボランティアをしていた”“留学に行っていた”などうまく話を合わせることができず、正直に答えてしまう。そして、難色を示される。これはひきこもりの人に限ったことではありませんが、履歴書に関係なく、本人の特性をもっと評価するように、採用側の仕組みを変えていくべきではないかと思います

 また、仕事を探す際にはハローワークが重要な拠点となる。しかし、国民に安定した雇用機会を確保するために設置されているはずの機関が、うまく機能していない現状があるのだという。池上氏がこう指摘する。

「長年、取材を続けてきた経験から、有効求人倍率を下げるためだけの“空求人”が多かったり、応募してみたら実は振り込め詐欺の仕事だったりと、悪質なケースがあります。求人数を増やすためだけに企業に営業をかけて、形だけの求人を出すことも多い。ひきこもりの当事者が意を決して窓口で応募をしても、本人にはどうにもできない理由で、つまづいてしまうんです」

 その一方で、地域の関係機関や企業と連携して、就労に関する相談窓口からマッチングまで一貫して対応するモデルケースが存在する。静岡県富士市の『ユニバーサル就労支援センター』だ。

「このセンターはひきこもりに限らず、就労ブランクが長い人や子育て、介護、病気などいろいろな理由で長時間勤務が難しい人の相談を受ける窓口となっています。地域で人手が不足している企業や団体と連携して、就労のマッチングまで行います。

 例えば、とある仕事を3か月やってみて、もっと続けても大丈夫そうであれば雇用契約を結ぶなど、柔軟な対応ができるのが特徴です。なかには交通費を負担してくれる企業や、お試しの期間中でも報酬を出してくれるような企業もあります。このように、もし就職が難しかった場合でもまたやり直すことが保証されているのは、当事者にとっても挑戦しやすい仕組みだと思います」