万が一のために自転車保険への加入が必須

 1億円近くの支払いを命じられてもそんな手持ちはとてもない。損害を補償してもらうためにも、自転車保険の加入は必須。東京都では4月1日から義務づけられている。

「加入義務化を進める自治体は増えていますが加入率は5、6割程度とまだまだ低いのが現状です」(遠藤さん)

 自転車保険の中には、世帯主が加入すれば家族全体が補償される保険や年間の保険料が1230円程度とリーズナブルなものもある。

 自転車保険を選ぶときは家族の人数や使い方に応じて、補償の内容や範囲、対象、年齢制限、料金を確認しよう。

「第三者に危害を及ぼしたときに1億円以上保障されるものなら、掛け金が安価で入りやすいものでよいと思います。火災保険や傷害保険などすでに加入している保険でも自転車事故の対応をしてくれるものがあるので確認してみてください」(長嶋さん)

 神奈川県川崎市で高齢の女性を自転車でひいた元女子大学生は禁錮2年(執行猶予4年)の有罪判決を受けた。

「相手にケガを負わせ、運転者に過失があれば処罰を受ける。これは自転車でも同じ。未成年者でも同様です」

 と前置きをしたうえで、古田弁護士が解説する。

「一般的には18歳未満は家庭裁判所に送られます、18歳以上は成人と同じように裁判で刑事処罰を受ける可能性があります」

 被害者に自転車をぶつけ、逃げれば車のひき逃げと同様の処罰が科せられる。

 ある自転車同士の事故で、加害者の高校生は現場から逃走。後日、書類送検された。事件直後、被害者は重傷だった。加害者が現場から逃げたことで救助が遅れれば相手の生命にも影響を及ぼす。

「自転車でも重過失傷害罪、道路交通法上の交通事故不申告罪(ひき逃げ)と救護義務違反となり重い処罰が科せられます。信号無視や一時停止違反とは違う、新たな重い罪を犯してしまうことになるんです」(長嶋さん)

 高校生であれば停学処分、場合によっては退学処分になるといった社会的な責任も負わないといけなくなる。

「何千万円もの損害賠償の支払いだけでなく、成人なら前科、前歴として残ります。少年でも前科や事故の内容により、少年院に入る可能性もあります」(長嶋さん)

 遠藤さんによると、中高生が加害者になるケースがほかの年代より圧倒的に多いという。

「イヤホンをつけながらの運転や、ながらスマホ姿も珍しくありません。また、そもそも交通ルールを知らない、親からも厳しく指導されたことがない、危険予知ができないという子が多いのも一因として考えられます」

中高生は自転車事故の加害者になる率が非常に高い!
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 中高生に限らず、運転免許を返納後の高齢者、子どもを送迎中の親たちも注意が必要だ。

 高齢者は故意的な違反だけでなく、高齢化が原因で赤信号に気づかない、確認を怠り、急に車道に飛び出す、なんて場合もあるそうだ。

 送迎時の保護者も自転車の前後に子どもたちを乗せて歩道を走っていて、もし歩行者にぶつかって転倒すれば、相手方もケガをするし、子どももケガをするおそれがある。

「急ぐ気持ちはわかりますが、時間に余裕をもち、止まる、徐行、安全な間隔と速度での走行を励行してほしい」

 と長嶋さんは願う。

「自転車事故の被害者となった歩行者が半身不随になったり、また3年ほど前に事故にあった知人はいまだに寝たきり状態です。被害者だけでなく家族も大変なんですよね。家族の人生も狂わせてしまうんです」(長嶋さん)

 被害者が一家の大黒柱だとしたら家族の収入も突然、途絶えてしまう。

「賠償をもらえないと被害者も生活できないんです。ですから破格の金額になるんです」(古田弁護士)