私の席は2階のB。2階の前から7列目以降となる。隣の人とは3つ空いてるが、通路際の席で、通路を空けてすぐ人がいる。1列おきの席作りかと思っていたら、斜め後ろにもすぐ人がいる。意外と密。正面のよく見える席だったがギッシリお客さんで、逆に西、東側にはほとんどお客さんがいない。あっちに行きたい、と思った。いい席で見たいよりも、密じゃない席でのんびり見たいほうが、今や上回る。少なくとも私の場合は。相撲ファンには高齢者も多い。今後の販売方法を考えてほしい。

拍手するだけの応援、
それしかないことに涙

 なんとなく落ち着かない気持ちで席に座ると、すでに十両の後半だ。見下ろすと溜まり席(土俵にもっとも近く各方面6列ある席)には誰もおらず、中央に土俵、取組を待つおすもうさん、審判の親方。テレビで見てるぶんには「いつもの風景」だけど、2階席から見ると、ガラン~として見えた。

令和2年大相撲7月場所。マス席は1マス1人しか座れないためガラガラに感じる(筆者撮影)
令和2年大相撲7月場所。マス席は1マス1人しか座れないためガラガラに感じる(筆者撮影)
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 富士東vs木崎海(正しくは立つ崎)、豊昇龍vs白鷹山、旭大星vs逸ノ城、推し力士たちの取組がどんどんあるのに、ごめんなさい、ぜんぜん頭に入ってこない。シーンと静まり返る場内。花道を歩く呼出しさんの草履の音までも2階席に聞こえる。力士がパンパンとまわしを叩く音が大きく場内に響きわたる。

 力士が土俵に上がると拍手。時間いっぱいになると拍手、勝負が決まると拍手。そして、あとはシーンと静まりかえる場内。ピーンと張った空気が流れていて、緊張して背筋が伸びてしまう。

 そして、ふいに涙が出てきた。

 これは私の知ってる大相撲じゃない。私が10数年通い続けてきた大相撲はワイワイ騒がしく、いざ勝負!の「時間いっぱい」とともに一瞬シーンと静まり返るが、勝負が始まればたちまちまた大騒ぎ。差別的な野次が飛んだりしてうんざりすることも多々あるけれど、とにかくうるさく下世話。あれこれ飲み食いしておしゃべりし、相撲見てないだろ? な人も多い。そうそう、入り待ち出待ちに命がけなファンだっている。そういう全部ひっくるめてが大相撲観覧だ。

 それが今、ひたすらまっすぐ座り、取組を見る。拍手する。それしかない。大相撲興行は、1750年ころに始まった江戸相撲興行から270年が経つ。270年を経て、あまりに劇的な変化だ。新しい大相撲。ちょっと息苦しくなり、一旦、廊下から外に出て、空を見上げた。周りには新しくできたビルがいくつかあるが、そこの1つは先日までコロナ陽性患者軽症者受け入れホテルだった。

 コロナ禍での新しい大相撲。そうなんだ、もう、四の五の言ってないで、それに慣れていくしかない。誰より、土俵に立つおすもうさんたちが戸惑っているはずだ。その戸惑いの中で、必死に戦っているんだろう。それなら、見なくては。相撲ファンなら、見なくては。

 席に戻ると幕内土俵入りだ。普段なら大声で声援するところだが、ひたすら拍手、拍手。あちこちでしこ名が書かれたタオルが振られる。2階席では間を空けた座席の背もたれにみんなタオルをかけて応援している。新しい応援スタイル。

令和2年大相撲7月場所。隣の人と3席空けて座るため、隣の席に応援の手ぬぐいを(筆者撮影)
令和2年大相撲7月場所。隣の人と3席空けて座るため、隣の席に応援の手ぬぐいを(筆者撮影)

 少し落ち着こうと持参したパンを食べることにしたが、がさがさとビニールの音をさせるだけで目立つ。慌てて飲み込み、お茶を飲んだら喉にひっかかり咳をして、たちまち注目を浴びてしまう……なかなか難しい。

 そういえばツイッターで、すぐ横の席の人が延々、咳をしていて、たまりかねて途中で帰ってしまった、という人がいた。そう、咳が出るときは行くのを止めましょう。それも新しい大相撲のマナー。ちなみに館内ではマスクは必ずつけていないとならない。飲食時ははずすが、終わり次第つけるようにと入り口でもらった注意書きにあった。

 思い返せば、大相撲は3月にほかのプロスポーツに先駆けて無観客試合を15日間、成功させた。そのいきさつについては、高崎親方にインタビューしてここに書いた。

(力士がコロナ陽性でも、相撲協会が5月場所を簡単にはあきらめない理由