中島みゆきに対して「MUGO・ん」に

 その2作後となる『MUGO・ん…色っぽい』('88年)は、本人出演の化粧品ソングとなった明るい楽曲で、全体に可愛く歌いつつ《♪内気ぃになーる》の「ぃ」や《♪おしゃべーりだぁーわぁ》の「ぁーわぁ」で声をカールさせるなど、テクニカルに感情を込めた部分がみられるように。作詞は彼女が大ファンだという中島みゆきが担当した。このころは、まるで少女漫画のヒロインのような細い手足で、体重も40キロ未満だったことを後年、明かしている。

 ちなみに、当時の人気音楽番組『ザ・ベストテン』では同年の年間6位となった際、中島みゆきがお祝いとして電話ゲストで出演。よほど緊張したのか歌詞を途中で忘れてしまい、まさに「MUGO・ん」になったエピソードも。本作は、シングル『紅蓮華』でヒットした歌手のLiSAやアニメ声優の上坂すみれなど、近年も活躍する若手アーティストにも人気の1曲だ(ミラクル度50%)。

 続く『恋一夜』『嵐の素顔』『黄砂に吹かれて』『くちびるから媚薬』と'88年~'90年にかけて、静香は5作連続で年間TOP10クラスのセールスを記録。このころは強くパンチのある歌声で背のびする一方、誰かに守ってほしいと不安げに歌う部分もあり、そのバランスが絶妙。アイドル誌でも儚(はかな)げな表情の写真が掲載されることが多かった。

 静香の歌の語尾に「ぅおぃ!」といった(東野幸治いわく「オッサンがいるような」)ミラクル風の歌い方が現れたのは、本人出演のドラマ『なんだらまんだら』(フジテレビ系)の主題歌となった『メタモルフォーゼ』あたりだろうか。当時、静香は21歳となり、このあたりで急激にキュートな要素(《♪心をそーそのかし、幸せねだるぅ~》と可愛くすねるような部分など)が増えつつも、それ以上にワイルドな部分(《♪どぅぉーにかなりそうにどぅあーいーてぇ》での前述のオッサン系)も一気にさらけ出すようになった(ミラクル度80%)。

 また、派手なメイクにきつめのパーマをかけたロングヘアでのテレビ出演が多くなり、本人も「新宿二丁目に同じようなメイクの人たちをたくさん見かけるようになった」と、とある番組で答えていた。

 そのワイルド&キュートの“ミラクル風”な歌唱バランスが完成したのが、'92年のシングル『声を聴かせて』だろう。この歌はいきなりゴスペル調の重厚なコーラスから始まるバラードで、静香もサビ頭から得意げにロングトーンを放つのだが、ラストの《♪遠い風に変わるまで》の部分が「くぁぅわーるーまでぇぇぇぇぇおおおおお」と、全盛期の中森明菜ばりにビブラートをきかせるのだ。そして、その直後のAメロは《♪意気地がないだけじゃない》と、キュートかつ、なだめるように歌う(ミラクル度100%)。

 翌'93年の『慟哭』は、売り上げ約94万枚と本人最大のヒット曲で、前述のとおりミラクルひかるの公式動画でも定番ネタとして紹介されているが、ミラクルにはその前作で難易度の高い『声を聴かせて』にもチャレンジしてほしい。なお、本作は近年の静香のライブでもアンコールで歌われる確率が非常に高く、それでいて当時のような力みが取れているので、以前のバージョンで胸焼けを起こしていた人にはぜひ、近年の歌声もどこかで聴いてほしい。

 さらに、'94年からは静香本人が『愛絵理』という名義で作詞と楽曲プロデュースを手がけるようになる。脱・アイドルを目指したのか突然、激しいダンスをするようになったのが21作目のシングル『Blue Rose』だ。《♪大切な愛を失くして 泣いてみるのもいいんじゃない》のたった10秒を聴くだけで、もはやミラクルひかるが歌っているんじゃないかと思うほど、ワイルド&キュートな要素がこれでもかというほど入っている(ミラクル度150%)。

 ダンスはさほど得意そうでもなく、それでも高い完成度を目指したのか、続く『Jaguar Line』ではサビの部分で息が切れ切れになっていて、そういう“無様に見えてもがんばっちゃうところ”が静香らしい。