緩和されても社会のムードはそのまま

 8月にオープンしたものの、営業状態は以前の半分以下の日々が続いているという。

「4月のオープンから本来はミュージシャンが支払うハコ代(会場使用料)と、外国人や20才以下のお客さんのチケット代を無料にしようと計画していましたが、今のようなキャパシティ制限の中では無理になりました。ハコ代やチケット代を無料にするためにはドリンク代で稼がないとならず、お客さんに大勢集まってもらうことが必要です。でも今は、難しい。それどころか、以前なら下北沢のライヴハウスは毎日イベントがあるのが当たり前だったのが、週に2本あればいいほうで、周りのお店もどこもそんな感じです

東京・下北沢 老舗のロックバー「トラブルピーチ」(筆者撮影)
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 スガナミさんは新しく開くライヴハウスを従来のものとは違う、音楽をやる人をより強固にサポートするようなお店にしようと計画していたが、それもこれも全てが不可能になってしまった。それどころか営業そのものが苦境にあり、3月からずっとそのままだ。

「6月に営業自粛要請が解除されるにあたって、厚労省と業界団体が営業ガイドラインを作ったんですが、最初のガイドラインだとソーシャルディスタンスを2メートル空けてとか、以前の20%以下も集客できない状態でした。徐々に緩和されたんですが、いざ自分が営業を始めて気づいたのは、ライヴハウスが感染リスクの高い場所だとやり玉にあげられた2月から、社会のムードはそのままなんです。日々、政府や知事に会見で言われてきて、いざ、解除されてもお客さんは戻ってこないんです。

 感染リスクはどんな場所だってゼロにはならないこと、感染者が出たところを差別しないこと、それを徹底して周知してくれないと信頼回復は難しい。今、強く思うのは、『もし、2月末にクラスターが発生したときに、あれだけ騒がれなかったら?』ということです。きっと、だいぶ事情が違ったんじゃないか? と思います

 2011年の原発事故の後、風評被害という言葉がさんざん踊ったが、これこそまさに風評被害ではないのだろうか? 

 そして、スガナミさんと同様のことを話してくれたのは、そのライヴハウスに出演する側、ミュージシャンの廣瀬久美さんだ。廣瀬さんは現在、主に子育てに忙しいが、その合間にもジャズ・ヴォーカリストとしてライヴハウスなどに出演する。夫の廣瀬潤次さんはジャズ・ドラマーで、世界をツアーして廻っている。

ライヴハウスで歌う廣瀬久美さん

「夫は3月中旬にフランス・ツアーが短縮になって、ギリギリ帰国できました。フランスでロックダウンが始まったころです。でも、日本に帰ってきてもお店が全部クローズになって、仕事は全くなくなりました。その後、6月下旬からツアーはいったん再開したんですが、前々からブッキングされていたライヴがチラホラあって出演する程度。地方で予定されていたライヴは東京から来ないでほしいとやんわり言われて中止に。これまで高校のビッグバンドの指導などもしていたのもキャンセルになりました。ジャズは夏~秋のジャズ・フェスやイベントが一年でいちばんの稼ぎどきなんですが、それも全部なくなって大きな打撃を受けています。なんとか配信ライヴなどをやっていますが……」

 ミュージシャンや司会業、スポーツインストラクターや通訳など、コロナ禍において仕事がなくなったフリーランスのために政府は5月、持続化給付金の制度を発表した。しかし、確定申告の収入区分で「事業所得」にしていた人はもらえるのに、「雑」とか「給与所得」にして申告していた人たちはもらえないという、不都合が出てしまった。