秋クールの新作ドラマが出揃いつつあるが、じわじわと盛り上がりを見せているのがテレビ東京系で木曜深夜1時から放送されている通称『チェリまほ』こと、『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(以下『チェリまほ』)。

トレンドに忠実な『チェリまほ』

 豊田悠氏の同名漫画を映像化した本作は、ひと昔前にネットで流行った「30歳まで童貞だと魔法使いになれる」という都市伝説をネタにしたBL(ボーイズラブ)ドラマだ。

 主人公の安達清(赤楚衛二)は平凡なサラリーマン。一度も性体験がない童貞のまま30歳の誕生日を向かえた安達は「触れた人間の心が読める」という魔法が使えるようになる。

 ある日、出社した安達は同期の営業マン・黒沢優一(町田啓太)に偶然、触れたことで、彼が自分に恋心を抱いていることを知ってしまう。

 その後、終電を逃したため黒沢のマンションに泊めてもらうことになる安達。

 黒沢の気持ちを知り困惑する安達だったが、相手の気持ちを知れば知るほど、どう振る舞うべきか戸惑い、悶々とする。

「童貞+BL+魔法(心の声が聞こえる)」という組み合わせがうまくハマっているというのが、初見の印象だ。相手の心がダダ漏れなのを知った上で知らないふりをして行動をしなければならない安達が、どんなふうに振る舞うかを観ているだけでもそれなりに楽しい。

 恋愛経験に乏しい未熟な主人公が、恋愛に翻弄される姿を描く恋愛ドラマは近年のトレンドである。『電車男』(フジテレビ系)や『モテキ』(テレビ東京系)、女性の主人公では『ホタルノヒカリ』(日本テレビ系)などが有名で、2016年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、以下『逃げ恥』)のヒットが記憶に新しい。

『チェリまほ』の感想をみていて感じるのは『逃げ恥』で星野源が演じた30代の童貞青年・津崎平匡を見守る生暖かい視線だ。今後、本作も『逃げ恥』のような盛り上がりを見せるのかもしれない。

 恋愛ドラマには時代ごとの変遷がある。80年代末は、華やかな男女たちのグループ恋愛をオシャレに描いたトレンディドラマが盛り上がったが、90年代に入りバブルが崩壊すると『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』(どちらもフジテレビ系)のような相手を一途に想う姿を描いた純愛ドラマが主流となっていった。恋愛の形態は多様化したが、純愛を求める視聴者の気持ちは今も変わらない。

 処女や童貞、恋を何年も休んでいた大人が、必死になって相手に思いを寄せる姿を描くと、恋愛の「純度」が高まることは、初恋のときの気持ちを思い出していただければ理解いただけるだろう。

 言うなれば、“30歳童貞”の青年が恋愛に翻弄される姿を見守る楽しさは、生まれてはじめてひとりで「おつかい」に挑戦する子どもたちの奮闘を描いた、バラエティー番組『はじめてのおつかい』(日本テレビ系)を見るドキドキ感と似ている。