自殺衝動をごまかすためにパパ活

 大学生の美咲さん(仮名=20)は、同団体の居場所を訪ねたことがある。「話を聞いてくれた」という実感はあるものの、自殺衝動は消えなかった。

〈今までありがとう〉

 5月下旬の昼間、美咲さんはツイッターでこのようにつぶやくと、公園で市販薬の過量服薬(オーバードーズ、OD)で自殺を図った。しかし、共通の好きなアーティストがいるツイッター友達から心配するメッセージが届いた。

「急にツイッター上からいなくなったと思われないように、ツイートしました。でも、友達からのメッセージを読んで“迷惑をかけちゃいけない”“自分のせいでトラウマになってほしくない”と思って、それ以上、薬を飲むのをやめました」(美咲さん)

 この後、精神科病院に入院した。母親には「本当に死のうとしてないでしょ」と言われ、心配された実感はない。

 美咲さんは小学校低学年のころから中学2年まで、兄から性的虐待を受け続けた。これが自殺願望の源だ。

美咲さんがODを繰り返しても母親は関心を示さない
美咲さんがODを繰り返しても母親は関心を示さない
【写真】インタビューで心の内を話してくれた「自殺未遂をした彼女たち」

兄から“誰にも言うな”と言われて従っていました中1のときに母親に見つかったんですが、兄はやめず、中2のときに担任に相談でき、児童相談所に保護されました

 その後、兄と一緒に暮らすことはなくなったが、自傷行為が今でもやめられない。

 ODのほか、腕をカッターで切るアームカット(アムカ)を繰り返す。さらには、出会いアプリで不特定の男性と会い、パパ活をする。

8月下旬に退院したあとも死にたくなり、9月は6回、10月は4回、ODをしました。アムカやパパ活は、死にたい気持ちをまぎらわせるためにしています」(美咲さん)

 こうした状況にもかかわらず、両親は娘の心情に無関心。特に母親は「自傷をする人を馬鹿にしている」と美咲さんが感じるほどだ。

入院時に主治医から渡された(病気に関する)資料を読んでいないと思います家族からのサポートは一切、ありません」(美咲さん)

 コロナ禍をきっかけに、それ以前からあった、さまざまな問題があぶり出されている。家族問題も、若い女性たちの自殺リスクも同様だ。

女の子たちはコロナの影響を受けていますね。親と過ごす時間が長く、ストレスをぶつけてくるといいますそれに普段行っていた場所に行けません私たちができることは信頼関係を作り、きちんと聞き取りをして、できることを探すことです」(橘代表)

 感染拡大のムード、仕事や学校のストレス、ステイホームでのイライラ、良好でない家族関係のさらなる悪化……。さまざまな要因で若年女性の自殺が増加した。行政には感染予防だけでなく、自殺願望を緩和させるための対策が求められている。また個人としても、SOSを出して、“死にたい気持ち”を理解する人とつながることが大切だ。

相談窓口
「いのちの電話」 0120-783-556(無料・毎日16時~21時まで)
「BONDプロジェクト」070-6648-8318(10代・20代の女性専用)

取材・文/渋井哲也 フリーライター。栃木県出身。自殺やいじめ、虐待など、生きづらさをめぐる問題を中心に執筆、東日本大震災の被災地でも取材を重ねている。
『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数