「土下座した」苦い思い出

――劇団出身のおふたりの出会いは?

八嶋 僕が20代前半のとき池袋のある小劇場で、(渡辺主宰の)劇団3〇〇の『タイム』を上演することになって、そこに客演したんです。でも結局、芝居作りが初日に間に合わなくて(芝居が)できているところまでを上演するしかなくなって。

 その初日に、作者であるえりさんが見に来られたんですが、できているところまでやって、そこで土下座しました。覚えていないと思いますけど、それが初めての出会いです。

渡辺 詳しくは覚えていないけど、芝居がここまでしかできていませんと、お辞儀して途中で終わったのに驚いちゃって(笑)。そこに誰が出ていたのかまでは覚えていなかったですね。

八嶋 エンディングに向かって盛り上がるところで急にここまでです、と終わったんですよね。

渡辺 あきれちゃって怒る気にもなれなかった。そんなことは生まれて初めてだったもの。後になって、その芝居に八嶋君が出ていたことを聞いて驚きましたね。

八嶋 僕も後にも先にもそれしかないです。

渡辺 八嶋君を役者として認識するようになったのは、彼の劇団(『カムカムミニキーナ』)を見に行くようになってからです。後輩たちにも厳しく指導していて、それは己にも厳しいということですから、きちっとまじめに芝居を作っていく人なんだなと思いました。

八嶋 それから普段からも仲よくしていただいています。僕らの劇団が「座高円寺」を定小屋にできたのは、えりさんのおかげですし、劇団をずっと見てくださり応援してくださっている。劇団の方向性としても、直系の大先輩ですしね。だけど、偉ぶらないし、逆にイジリがいのあるチャーミングな先輩なので、僕は大好きです! 失礼なことをたくさんしてきたと思うけど1度もぶち切れられたことはないですし、僕が甘えています。

渡辺えり 撮影/佐藤靖彦
渡辺えり 撮影/佐藤靖彦

渡辺 1回、絶交だぁ! と言ったことはあったけどね。

八嶋 ありました? 僕じゃない人では?

渡辺 段田(安則)さんに“昨日、八嶋君と絶交したから”と言ったら、段田さんがものすごくウケたのを覚えている。なんで絶交したかは忘れて、いつの間にか元に戻ったけどね。

――今回、絶交はない?

渡辺 わからないですよ(笑)。絶交して4年間まったく口をきかなかった役者さんもかつていましたから。今回もわからないです(笑)。

八嶋 すげぇなー(笑)。