不思議なプレゼント

 困ったときは周囲に手助けしてもらうなどコミュニケーション能力が高かったわき容疑者は、気遣いのつもりか、不思議なプレゼントをあげることも。

 犬を飼っている近隣宅には、「おばちゃんからもらったから」と言って高級ペットフードをポン。

 顔見知りの女性には、「娘からもらったから」と言って、なぜか中古の男性用財布をあげようとしている。

 前出の女性住人が振り返る。

「そういえば、自転車のカゴにつける防犯カバーをくれたことがあった。自分の自転車にもつけていました。“年の瀬でひったくりが多いから気をつけなきゃダメだよ。持っていかれちゃうから”と言って取りつけてくれたのに」

後部に荷物カゴを取りつけた自転車は多い(※事件とは関係ありません)
後部に荷物カゴを取りつけた自転車は多い(※事件とは関係ありません)
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 そんな、わき容疑者も、ここ最近は外出が減っていた。

 近所の男性が言う。

「数か月前から警察がマークするようになり、周辺宅に防犯カメラの設置協力を求めるなど身辺があわただしくなっていたんです。わき容疑者は建物の陰からこっそり警察の様子をうかがうなど、そうとう気にしていましたね」

 逮捕当日は“大捕物”を回避するためか、少なくとも10数人の私服刑事らがマンション周辺にスタンバイし、騒ぎにもならずおとなしく連行されていったという。

 取材するかぎり、周囲に一度でも借金を申し込んだ痕跡はなかった。実際、金に困っていた様子はみられない。前出の女性住人に対し、なぜ犯行におよんだのでしょうねと尋ねると、こう返ってきた。

「泥棒の癖がついちゃっているのかもしれないですね。逆に聞きたいんですけれども、それって直るんですかね」

 さあ、わかりません、と答えることしかできなかった。

◎取材・文/渡辺高嗣(フリージャーナリスト)

〈PROFILE〉法曹界の専門紙『法律新聞』記者を経て、夕刊紙『内外タイムス』報道部で事件、政治、行政、流行などを取材。2010年2月より『週刊女性』で社会分野担当記者として取材・執筆する