おしゃれに見せる3ステップ

 ドラマや映画の仕事を手がける傍ら、がん患者のための帽子制作費を募る「チャリティーカジノパーティー」を毎年主催して20年になる。『パンダ』や『五輪』などお題を決めて参加者たちとファッションを楽しみ、集まった20万~30万円をがん研有明病院が支援する『帽子クラブ』に寄付してきた。

「“どうせやるなら、楽しく社会貢献”が私のテーマなの。抗がん剤の影響で髪の毛が抜けちゃう患者さんは周りの目が気になって帽子の試着ができない悩みを抱えていると知ってね。ほら、洋服と違って帽子は試着室がないでしょ? だから病院の一角で素敵な帽子に出会って、おしゃれする機会を増やせたらいいなって」

 最近では、一般の方からスタイリングを相談される機会も増え、自分で“着る力”を身につけられる『スタイリングレッスン』を展開している。

 長年芸能人のスタイリングを手がけてきた西さんに、一般人でも取り入れられるおしゃれのヒントを尋ねてみた。

 スタイリングで大切なのは、3つのキーワード『コンサバティブ』『エッジ』『華やかさ』だと言う。

「芸能人も一般の人も基本は一緒です。永遠の美しさである『コンサバティブ』をベースに、人それぞれの個性を演出する『エッジ』と『華やかさ』のボリュームを調整し、その人らしいキャラクターを創り上げていくのが“西ゆり子メソッド”なんです」

 これまで多くの先人たちが作ってきたオーソドックスで伝統的な美のルールをベースに、自分らしい「エッジ」をきかせる。どこかに1点だけ、最新モードのアイテムを取り入れたり、大胆な色や柄の物をプラスするのだ。

 そして仕上げに、その日会う人のことを考えながら「華やかさ」を調整する。

「シックなスーツにグローブだけ赤にするとか、時計だけ赤にするとか。ドキドキするでしょ、自分でも。たったそれだけのことなんですよ、洋服を楽しむことって」

 昨年、西さんは『放送ウーマン賞2019』で日本女性放送者懇談会50周年特別賞を受賞した。放送界で活躍し優れた功績を挙げた女性に贈られる賞である。

「20代のころからスタイリストの仕事について50年。70歳になって、やっと自分が見極めた結論のようなものがクリアになってきました。これからは、それをひとつひとつお伝えしていこうと思っています。死ぬまで現役で仕事をするつもりですよ! この仕事、最高に楽しいですから」

 多くの人をおしゃれの魔法にかけてきた西さんだが、自分のおしゃれも全力で楽しんできた。70代は「とんがる」のが目標だという。

「あらゆる服を着てきたから、これからは自分の好きなアイテムを自分の好きなように組み合わせて、おしゃれができる。今、すごい毎日が楽しいんですよ。おしゃれって本当に人を元気にさせてくれますよね」

 そう言って、西さんは眼鏡の奥の目を細めた。

取材・文/小泉カツミ

ノンフィクションライター。社会問題、芸能、エンタメ、など幅広い分野を手がける。文化人、著名人のインタビューも多数。著書に『産めない母と産みの母~代理母出産という選択』など。近著に『崑ちゃん』『吉永小百合 私の生き方』がある