人は存在するだけで意味がある

「自分の人生を振り返ること。それは、死を前にした人が、必ず行あうことです」

 確かに、そこに前向きな明日を見いだせるかもしれません。しかし一方で、過去を振り返ったとき、「ああすればよかった」という後悔や、「何の役にも立っていない」という無力感ばかりが出てくる人も、いるのではないでしょうか。

「実は私も、終末期の患者さんと接する中で、“自分は患者さんの力になれているのか”と、無力感に苦しんだことがあります。しかし、悩み抜いた末に見えてきたことがあるのです。それは“自分は弱い人間にすぎない”ということ。そして、そんな自分には、家族、仲間、友人、先に亡くなった父など、たくさんの“見守り、支えてくれる存在がある”ということ。

 そう考えれば、何もできない弱い自分だからこそ、患者さんのそばで共に苦しみを味わうことができる。そして、患者さんのそばにいることが無力な自分の心の支えになる。

人は存在しているだけで意味がある。これは、私にとって大きな気づきでした」

 先生はホスピス医を「見えない伴走者」と定義しています。人は苦しいときに「がんばれ!」という励ましよりも、「わかってくれる誰かが傍らにいる」と思えることに救われるのだと言います。

 どんな人も「ただここにいるだけでいい」と思える温かいつながりを感じることで幸せになれるし、強くなれるのです。

先生からのMessage
他者の幸せを望むと心に「支え」と「希望」が生まれる
 一人称の幸せは、多くの人と分かち合うことができないし、必ず「失う恐怖」がつきまといます。さらに人と比較して落ち込んだり優越感に浸ったり、心に平穏は訪れません。一方、他人を幸せにしたり、人の喜びを幸せと感じることができれば、そのつながりが心の支えになり、心の穏やかさが得られます。

“一人称の幸せ”を手放した先にあるもの

 そんなふうに考えて自分の人生を振り返れば、“幸せとは何か”の価値観が違ってくる気がします。

「そのとおりです。これまで私たちは、お金を手に入れたり、有名になったりすることで、自分1人が幸せになるという“一人称の幸せ”に邁進しがちでした。しかしそれには限界があります。本当の幸せは、他者と競争したり、奪い合ったりして得るものではなく、自分の存在が誰かの喜びにつながっていると実感できる心穏やかな状態にほかならない。そこに気がつけば、人はネガティブな感情を手放し、毎日をもっと自分らしく楽しんで生きることができると思います」

 25年で3500人を超える人を見送った医師の言葉には、人生を豊かに、後悔なく生きるためのヒントがあふれています。

「もしあと1年で人生が終わるとしたら?」。この小さな問いかけを糸口に、あなたも考えてみてください。きっと、人生の意味や価値に気づくヒントとなって、一日一日が、これまでとは違ったものに見えてくるはずです。

先生からのMessage
努力する過程で学んだことは、結果よりもはるかに大事
 世の中は理不尽です。努力が必ずしも実るとは限りませんし、「努力すれば報われる」と思っていると現実とのギャップに苦しむことも。しかし、たとえよい結果につながらなくても、努力をする過程で人は必ず何かを学んでいます。それは結果よりもはるかに大事なことです。