「患者はみんな家族のように思え」産婦人科医だった亡き父親の教えを貫き、31年。1日80人以上の女性を丁寧に診察するカリスマ医師の原点には、忘れられない患者たちの姿があった。性教育、生理や妊娠・出産の悩み、婦人科のがんと向き合い、女性の味方であり続ける八田真理子先生が「子どものいない人生」を選択した理由とは?

 千葉県松戸市の閑静な住宅街に、婦人科・産婦人科専門の『ジュノ・ヴェスタクリニック八田』はある。白い外壁の2階建てで、植木や花に囲まれた建物は、ちょっとレトロで、温かい雰囲気が漂う。

 事前に約束していたとおり、そっと入り口から入る。

 休診日なので、待合室は消灯され、人けはない。

「しー」、取材スタッフ同士で目くばせしながら、静かに廊下を進むと、明かりがともった談話室で、白衣姿の女性が打ち合わせをしている。

 こちらに気づくと、「遠いところをありがとうございます」、人なつこい笑顔を向け、「もうじき始まるので、挨拶はあとで! ふう、本番前は緊張しちゃう」、肩をすくめて、パソコンと向き合う。

女子大生の悩みを親身に解決

 この女性が、院長の八田真理子先生(55)。生理で悩む女性の救世主として『深イイ話』(日本テレビ系)に出演するなど、メディアで引っ張りだこのカリスマ産婦人科医だ。

 これから、八田先生の講演会が始まろうとしていた。

 テーマは、「生理のトラブル」について。一般社団法人『婦人科検診促進協会』主催の100人もの女子大生と回線をつないだ、リモート講演会だ。

 画面の中で司会役の女子大生に紹介されると、「なんでも聞いてくださいね!」と前置きして、生理のしくみや生理痛の原因などを、スライドを交えて説明していく。

「生理って、妊娠の準備のためにふかふかにした子宮のベッドの壁が、妊娠しないことで剥がれ落ちることなんです。たとえるなら、月に1度の婚活パーティーで、いい人と出会えなくて、う~ん玉砕!っていうイメージかな」

 身近な話題をポンポン盛り込むので、専門的な話もわかりやすい。

 途中で女子大生から「生理痛の薬が効きにくいんです」と質問が入れば、的確な回答をしたあと、ライブならではのアドバイスを加える。

「ポイントはね、痛くなる前に飲むこと。すっごく大事!」

 気取らない話しぶりに、質問者が「ええ!? 限界まで我慢して飲んでました。最初から飲むと、痛み止めに慣れちゃうかと思って」と返せば、「そっか、そっか。でも、用法、用量を守れば、痛み止めに慣れちゃうってことはないから大丈夫」と先生。

 ざっくばらんなやりとりで、「おりもの」や「避妊のしかた」「生理前のイライラ」など、ふだんなら聞きにくいことも、遠慮なくディスカッションされていく。

「生理がどんどん重くなるとか、おりものの色やにおいが変だなとか、いつもと違うって感じたら、1人で悩まないで、私たち婦人科を頼ってくださいね」

 終盤で八田先生が提案すると、「生理痛なんかで病院に行っていいんですか」、不安げな女子大生に、「もちろん!」と即答する。

 そして、学生の気持ちを察するように、言葉を足す。

「婦人科って、なんかハードル高いよね。内診とか怖いし。でも内診しなくても、血液検査や、セックスの経験がなければおしりからのエコー検査でも診察できるの。だから怖がらなくて大丈夫。身体を守るためにも、かかりつけ医を見つけておくと安心ですよ」

 女子大生たちが笑顔になったところで、90分にわたる講演会はお開きとなった。

 リモート回線を切ると、八田先生は疲れを見せるどころか、名残惜しそうに言った。

「いつも調子が出てきたころに終わっちゃうんですよね。おりものの話なんか、あと1時間くらいしたかった!」

 この情熱こそ、八田先生が多くの女性たちに慕われる理由なのだろう。