つながり求める思いを悪用した座間事件

 SNSやネット掲示板は、匿名の中で自分の気持ちをつぶやき、それを受け入れてくれる居場所だった。しかし、インターネットが広く普及されるのに伴い、誹謗中傷が増え、行政などの対策も強化された。今では居場所の要素がなくなっているのが現状だ。

 '17年10月30日、神奈川県座間市のアパート内で切断された遺体が見つかった。逮捕されたのは、白石隆浩(当時27=死刑囚)だ。被害者9人のうち、8人が女性だった。

 1人目の被害者・Aさんは中学2年のときにいじめに遭っていた。恋愛にも悩みがあり、高校1年のときに家出をしている。'16年8月、ネットで知り合った女性と自殺を図り、自分だけ助かった。罪悪感から入院先でも自殺未遂をする。'17年8月ごろ、死にたい気持ちはより強まった。

 このころ、白石は風俗スカウト時代の経験上、「自殺願望のある人は言いなりになりやすいと思っていた」(検察側冒頭陳述)ことから、ツイッターで「死にたい」「寂しい」「悲しい」などとつぶやく女性を探していた。

 白石は同年2月、売春させるのを知りつつ風俗店に女性を紹介した罪で、執行猶予判決を受けていた。釈放後、「まともな仕事はできないだろう」と考え、女性のヒモになろうと思いつく。そのため「一緒に住もう」とAさんを誘い51万円を振り込ませた。

 それから白石は座間市内のアパートを借りることになるが、ここでAさんだけでなく、ほかの8人も殺害する。

 白石に殺された被害者の心情は「自殺系サイト」に集まるユーザーの心情に近い。「死にたい」と打ち明けるだけで心理的に安定する。死にたい理由は、学校や夫婦関係、仕事の問題、精神疾患の悩みなど、さまざまだ。

 座間事件の裁判の傍聴に何度も通ったチカさん(仮名=20代)は、被害者の心情がわかるという。

「鍵付きのアカウントですが、私もSNSで“死んでもいい”とつぶやいたことがある。もし、鍵をはずしていたら、白石とつながったのかもしれないです。ネットは気軽につながれますよね」

座間事件に関心を寄せるチカさんは傍聴のたびにノートに記録を残していた
【写真】「やってらんね」掲示板に残されていた加藤死刑囚の書き込み

 なぜチカさんは、そのようにつぶやいたのだろうか?

「コロナ禍でずっとひきこもっていて、大学も卒業できませんでした。生きていても意味があるのかな、と思っていたんです。友人数人に自殺をほのめかすLINEを送ったこともあります」

 最近でも座間事件と類似の事件は起きている。'19年9月、東京・池袋のホテルで、ツイッターで「死にたい」とつぶやいていた女性が大学生の男に殺害された。'21年3月にも、「自殺したい」とつぶやいていた19歳の女性の殺害未遂事件があった。

 居場所を求めても見つけきれないまま、今なお多くの若者たちがネット上で漂流している。

取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『ルポ 平成ネット犯罪』(ちくま新書)ほか著書多数