【手立て1】
家族間の絆にもヒビが! 資産凍結で起こるトラブルを把握

介護費用を立て替えても一切戻らない!?

 認知症で資産凍結されることを知らない人は多い。また知っていたとしても、事前に対策をとっている人は数パーセントだと横手さん。

「親のキャッシュカードがあれば普通預金は引き出せるし、多少の不足分はとりあえず立て替えておき、相続の際にその分をもらえばいいやと考えている人が多いですね」

 ところが、ここにも大きな落とし穴が!

「勝手に引き出していたことで、『使い込んだのでは』とほかのきょうだいから責められることがあります。明確に親のために使ったという証拠がなければ、遺産分割時にトラブルにつながりやすいのです

 不当利益返還請求を受けたり、時には身内であっても横領罪として訴えられることもあるという。また立て替えていた場合も要注意

「500万円立て替えたと主張したとしても、ほかのきょうだいから“勝手にやったんでしょ”と言われて、相続時に立て替え分をもらえないケースが。請求するには、こちらも親のために使ったという証拠を残しておく必要がありますが、煩雑な作業なので実際には難しいですね」

介護が原因で離職、うつ、貧困の危機

 では具体的に、親が認知症になった場合の老後資金は、いくら必要なのだろう。

認知症の発症期間は10~15年といわれています。発症してすぐに施設に入る人は少なく、家族がヘルパーの力を借りながら自宅介護をする段階を経て、その後、施設に入るという選択が一般的です」

 おおまかに試算をすると、5年間自宅で介護し、その後5年間は介護施設を利用した場合、およそ10年で介護・生活費用は約3660万円に。月の年金が20万円と仮定すると、10年間で累計約2400万円になるので、差額の1260万円が手持ちの負担額となる。仮に両親が2人とも認知症になったら、2倍の金額が必要に!

「老後資金は貯金額のみ……という人はまれです。ほとんどの人が、自宅の売却益や保険金を自分の老後資金に充てようと考えています」

 けれども認知症になると、あらゆる法律行為ができなくなる。不動産の売買や、満期保険金や個人年金の解約や受け取り、証券など金融商品の取り扱いにも制限がかかることに。

「それゆえ、資産凍結=老後の資金がショートという図式になりがちなのです」

 介護費用を捻出できなければ、子どもが介護を行うしかない。実際に、親の介護で会社を辞めざるをえなかった介護離職者は年々増え、現在では10万人を突破している

「自らの収入を断たれ、自分の老後費用の準備もままならず、介護で心身が疲弊……介護でうつ病となる人も少なくありません。親の認知症が引き金となり、家族全員に負の連鎖が起こる可能性があるのです」


口座凍結の悲劇! リアルトラブル

●満期となった保険金400万円が引き出せないピンチに!?

 母の保険が満期となり、400万円が振り込まれたので引き出しに母と一緒に銀行へ。母は最近ボケぎみですが、認知症と診断されていなかったので、口座凍結されないだろうと思っていました。ところが窓口へ行くと身分証の提示を求められ、お金の使い道を根掘り葉掘り聞かれて。母はうまく説明できず、一時は凍結されそうな場面も。1時間近くやりとりが続き、なんとか引き出すことができました。(S.Sさん 65歳)

《横手さん's Voice》
 まず病院で認知症と診断されていなくても、銀行の窓口でやりとりをした際に「認知機能に問題あり」と判断されれば口座凍結されてしまいます。また、多くの金融機関では詐欺対策として、高齢者が高額預金を引き出す際に厳しいチェックがされるようになっています。

●法定後見人をつけたおかげで母の生活が一気に困窮!

 75歳の父が認知症となったため、他人に財産を管理してもらうことに抵抗はありましたが、法定後見人をつけることに。74歳の母親は父の年金から生活費を補充していたので、その件を後見人に話すと、「契約者の財産を損なうことはできない」と一切お金を出してくれない! 母の年金はわずかなので、生活するだけでギリギリ。趣味も楽しむことができなくなり、最悪でした。(K.Mさん 50歳)

《横手さん's Voice》
 
法定後見人は、契約者が長生きをしても豊かな生活ができるよう、なるべく資産を目減りさせないようにします。K.Mさんの後見人もルールにのっとってはいますが、実生活にはそぐわない対応です。法定後見人のデメリットを表す顕著なパターンですね。

●母のキャッシュカードを紛失!ある日突然、介護破産が現実的に

 認知症となってしまった母。暗証番号は知っていたのでキャッシュカードを使って日々の生活費を引き出していました。ところがある日、そのカードがない! 銀行に相談をすると、即、口座凍結。私のなけなしの貯金を切り崩して母の生活費と介護費に充てていますが、認知症は日々進行していく一方。施設に入居してほしいのですがまとまったお金も用意できず、不安がつのる毎日です。(M.Nさん 61歳)

《横手さん's Voice》
 
認知症は介護費用がいつまで続くのか先が見通しにくい。「認知症はがんより怖い」という人もいるほどです。長期間にわたるので、親のお金はいくらあるのか、毎月いくらかかるのか、不足分はいくらなのか……親が元気なうちに話し合っておくことが大切なのです。