ワクチンパスポートは、ワクチンを打つインセンティブ

 ただ、ワクチンは感染そのものを予防できるものではないというのもまた事実。

「シンガポールでは感染を広げないための対策もしっかりとされています。各家庭にコロナの検査キットが配布されたり、感染者が出た場合には、本人はもちろん濃厚接触者の検疫命令はかなり厳格です。現在は条件を満たせば自宅で10日間の隔離等でOKな場合もあるものの、隔離違反には厳しい罰則があります。かなり厳しい規制で、感染よりも隔離が怖いといった声があるほどです」

シンガポールで各家庭への配布が開始されたコロナ検査キット
シンガポールで各家庭への配布が開始されたコロナ検査キット
【写真】シンガポールの各家庭に配布されたコロナ検査キット

 アメリカでは9月15日には「接種証明」提示を前提にNYでのブロードウェイ劇場が再開し、日常を取り戻しつつあることをアピール。LAでは10月7日から1万人以上の大規模野外イベントやテーマパークの客・従業員に接種証明表示を義務付ける方針が示された(接種が受けられない人には陰性証明の表示を求める)。さらに公立学校では12歳以上の生徒について、来年1月10日までのワクチン接種を義務付けるとした。

 これもすべて、日常を取り戻すため、対面授業を再開させるための安心材料として、頭打ちになりつつあるワクチン接種者の数を増やすためだ。

「賛否両論はありますが、ワクチンを打っていなければ職場に出社しにくい、職を失うリスクが伴うといった環境が作られつつありますよね。その傾向はシンガポールでもいえることで、職場での検査の頻度も上がっています。今回は国主導で大きな行動規制が再び入りましたがこれからは個々の接種状況や検査の管理は国から企業努力へと移行していくとも考えられます」

 しかし、各国の報道を見るとマスクをつけていない人々の姿も。ワクチンが感染を防ぐものではない限り“ワクチンパスポートを持っている”といったことが気のゆるみにつながり、感染予防を怠る原因になるのではと、不安はつきない。

「実際にシンガポールでは、8月10日の規制緩和以降に新規感染者数が増えており、ブレイクスルー感染も報告され、再び規制が強まりました。ただ、重症者の割合が少ないという点と、検査や検疫体制がしっかりなされているといった観点から、今後はさらなるワクチン接種、ブースター接種を促しながら、経済再生とのバランスを考える政策に後々なってくるのではないでしょうか」

 ワクチン接種済みの提示とともに、10月24日までの行動規制、マスク未着用に関する罰則制度などが続いているシンガポール。気のゆるみを増大させるのではなく、引き続きの予防策と両輪で進めていくことが、今後経済を立て直しつつ、「withコロナ時代」を生き抜いていくポイントになってくる。