海外の有名芸術家の年収

 シェイクスピアはかなり稼いでいたことで有名だ。さすがは17世紀初頭のロンドンで大人気の俳優兼劇作家だっただけあり、その年収は「低く見積もっても」200ポンド(2000万円)。当時の学校教師の10倍は稼いでいたことになる。ただ、その数字には投資による不労所得が含まれていた。投資家としても優秀だったシェイクスピアは、47歳ごろには劇団関係の仕事をすべて辞め、故郷で悠々自適のアーリーリタイア・ライフを実践しはじめている。

 意外なのはモーツァルトかもしれない。西洋音楽史でも有数の天才として知られ、18世紀のウィーンで活躍したモーツァルトだが、晩年は人気が凋落してしまう。貧苦にあえぎながら美しい旋律を五線譜に書きつけたというのが伝説になっている。

 しかし、実情はかなり違う。人気が特に落ちていたとされる晩年の10年間でも、平均で3000~4500グルデンフローリン(約1200万~1600万円)もの収入があった、と最近の研究では指摘されている。しかし、モーツァルトが35歳の若さで亡くなったときには現在の日本円で1750万円の借金が残った。この理由はモーツァルトが違法の高額賭博という悪癖にハマっており、ギャンブルでお金を溶かしてしまったから、といわれている。

 生前は名実ともに極貧だったが、没後に評価が急上昇する画家ゴッホのようなケースもある。19世紀末に描いたときには値がつかなかった『ひまわり』が、制作から約100年たった日本で58億円もの価値がついている。生前のゴッホは弟からの仕送りで食いつないでいたし、絵が実際に売れたのは一生で数回だけ。デッサン画は1枚あたり2・5ギルダー(1万2500円)、生涯で1枚だけ売れた油彩画『赤い葡萄畑』は400フラン(4万円)の激安価格だった。筆者の試算によると、専業画家時代のゴッホの年収は2・3万円と売れない芸人レベル並みに低かった。

《PROFILE》
作家・歴史エッセイスト堀江宏樹 ◎1977年生まれ、大阪府出身。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒。日本、世界、古代、近代を問わず、歴史の持つ面白さを現代的な視点、軽妙な筆致で取り上げている。著書多数。最新刊は『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)。

初出:週刊女性2021年11月2日号/Web版は「fumufumu news」に掲載