仕事を続けられず収入がゼロに……

 岡崎さんは倒れて入院してから約半年後に退院した。退院して最初に気になったのは、仕事のことだった。当然特許事務所に復帰して働くつもりだったが、そうはならなかった。

「入院中は今よりもっとうまく話せなかったので、当時事務所を共同経営している弁理士や弁護士とは、妻にやりとりしてもらっていました。私が話すと大変なので。それで退院後、事務所に復帰しようと思って妻に『いつから事務所に行けばいいですか?』と聞きに行ってもらったんですが、その返事が『もう来ないでほしい』でした

 弁理士の仕事は多岐にわたり、特許出願時には発明した人と対面で綿密な打ち合わせが必要になるのだそう。歩行器を使わないと歩けなくなった岡崎さんでは、倒れる前のように業務をこなしていくのは難しいと判断したのかもしれない。

「結局その申し出をのんで、辞めざるをえませんでした」

 その後、自宅を自身の特許事務所として登録したが、不自由な身体では新たな顧客を見つけてくるのも難しい状況だった。

小脳出血を発症するまではいたって健康で、ゴルフのコンペにもよく参加していたという 撮影/佐藤靖彦
小脳出血を発症するまではいたって健康で、ゴルフのコンペにもよく参加していたという 撮影/佐藤靖彦
【写真】家の中で歩行器を使って移動する岡崎さん

うまくしゃべれない、歩けないじゃ、『こいつに仕事頼んで大丈夫か?』と思われてしまいます。たとえ頭の中がはっきりしていても、です

 せっかく無事退院できたのに、次の問題が襲いかかってきた。仕事がない、つまり収入がないことである。

「倒れて入院したときから収入がなくなりました」

 入院費用は個室に入っていた最初の2か月間は月に約60万円、その後、大部屋に移ってからの4か月間は、月に約30万がかかった。入院していた半年間で、合計約240万円かかったことになる。相当な金額だ。

「でも、入院費用は健康保険を使えばあとである程度戻ってくるので、そこまで負担ではありませんでした。想定外でつらかったのは、退院後に特許事務所を辞めることになり、収入が途絶えたことです。自宅マンションのローンもまだ残っていたのに……。正直、頭を抱えました」

 生きている限り生活費はかかる。妻も息子もいる。住宅ローンに加えて3人分の生活費もかかる状況の中、収入ゼロでどうやって乗り切れたのだろうか。

「幸運なことにそれまでの蓄えがあったのと、医療保険に加入していたのでその保険金で、何とか親子3人で生活していくことができました

家の中を移動するにも歩行器を使い、外出することはほとんどない 撮影/佐藤靖彦
家の中を移動するにも歩行器を使い、外出することはほとんどない 撮影/佐藤靖彦