「好きな人」の言葉が及ぼす影響

 ただでさえ、強烈で、人から言われたくない言葉。もし、その言葉を大事な人、好きな人に言われたらーー。

 それは“生きていくことへの強い恐怖心や不安を生む”と井上先生。どういうことか。

「自分が愛されることを願う相手から、“死ね”のように存在を全否定されて、強い拒絶をされると、今まで培ってきた信頼や絆、心のよりどころなどをすべて失ってしまいます。いざというときに頼ったり、守ってもらえる居場所すら、失うことになるのです」

 相手にとっては一瞬の言葉でも、ダメージを受けた側には長いこと影響が出ることも。

「言われた直後には、相手に対する恐怖心や絶望に近い落ち込みだけではなく、感情が麻痺して頭が真っ白になることがあります。当然、言われた影響はそのときだけではありません。しばらく時間が経ってからも、言われた場面が頭から離れず、まさに今も言われているような気持ちになってしまうことも。夢にまで出てきて、夜も眠れなくなってしまうというケースも少なくありません」

 たった2文字の「言葉」でも、相手に及ぼす影響は計り知れない。今、実際にその言葉を投げかけられ、傷ついている人もいるかもしれない。そんな人に、周りが、そして自分自身ができるケアについて教えてもらった。

・自分が「死ね」と言われて傷ついた場合

「急性期的な心のケアとしては、自分の身体が心地いいと感じることを行なってください。好きなものをお腹いっぱい食べることだったり、マッサージを受けることだったり、ずっと布団にくるまっていたり、人によっては大声で歌うことかもしれません。自分にとっての『快』を感じられることが、ケアになります。

 その上で、ゆっくりと時間をかけてでも、誰かの役に立っていることを認識できるような行動をしてください。ボランティアでもいいですし、大切な人に日頃の感謝をして、相手の笑顔を見るでもいい。仕事に打ち込むでも構いません」

・周りの人が「死ね」と言われて傷ついている場合

その人に、存在の大切さを伝えるようにしてください。“あなたがいるから、私は元気に過ごせている”といったように、その人がいてくれるから助かっている、という感謝を伝える。そして、孤独を感じないようできるだけそばにいてあげる。物理的にそばにいるのが難しいなら、“つらいことがあればいつでも話を聞くからね”というように、その人が精神的なつながりを感じられるようにしてください」

 冒頭でも述べたように、言葉は「凶器」ともなれば、「救い」にもなる。後悔する前に、言葉の選択を、いま一度見極める必要がある。


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