参議院より衆議院への復帰が王道

 しかし、そんな彼女が参議院議員とはどういった風の吹き回しでしょうか。総理大臣を輩出した前例の無い参議院議員、また、まだ国政政党でもない都民ファーストの会での当選では、総理の座はかえって遠のいたといえるのではないでしょうか。

 私は、あえて彼女が参院出馬を選ぶとしたら理由は体力面しかないと考えています。終息宣言が出ない限り、コロナ対策の顔として再来年の都知事選でも小池氏が大本命となります。敢えてその座を捨てるとしたら、既に都知事の激務に耐え得る身体に無く、第一線を退くという意思表示なのかもしれません。

 しかし、あれだけの修羅場をくぐってきた小池氏に限って「さらさらございません」という心の声が聞こえそうです。私も、彼女が衆議院議員の頃までは、1500人の講演会を主宰した後で呑んだり、街頭演説で横に立った経験もあり、不撓不屈ぶりをまざまざと見せつけられた一人です。

 とすれば、小池氏は衆議院議員を狙うのが本筋と言えます。実は、彼女の衆議院復帰を後押しする制度の変更があるのです。

 東京の衆議院小選挙区が次回総選挙から5つ増えます。昨年11月30日の2020年国勢調査の確定を受け、衆議院議員選挙区画定審議会は、選挙区の区割りを改定して6月に勧告します。そこでは何と、知事への意見照会がなされます。既に1月30日の第20回会合から、知事からの回答を踏まえて、改定案が作成され始めています。

 名うての策士が、この千載一遇のチャンスをみすみす見逃すはずがありません。

 元来の地元選挙区だった、豊島区や練馬区を含んだ新たな小選挙区の原案を出し、後に自ら出馬するというウルトラCも可能なのです。2025年10月までに施行される次回衆議院議員総選挙こそ、決戦の時です。そこまでの繋ぎ方に腐心しているのが今の彼女の姿です。

 この戦略の最大のメリットは、新設の小選挙区ですから自民党候補がまだ不在であり、敵対を回避できる点です。当選前後の自民党復党への難易度が下がり、自民党衆議院議員として、高らかに総裁選へ出馬することも可能なのです。

 ただし、それには自民党内での地殻変動も必須条件です。例えば、参院選に敗退したなどの理由で岸田総理が退陣、河野太郎政権が誕生していれば可能性が高まります。なぜなら河野氏に近く、昨年“失脚”した二階俊博元幹事長が復権するからです。河野政権の後、二階派の総裁候補として小池氏を擁立というシナリオは十分にあり得ます。小池氏と二階氏の親密ぶりは政界では有名なのです。

小池百合子氏と親密な二階俊博元自民党幹事長
小池百合子氏と親密な二階俊博元自民党幹事長
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 体調不良から意に反して、今夏の参院選に出馬のパターンでは、野党の参議院議員です。この場合は、体調好転を待って次の総選挙で衆議院に鞍替え、かつ野党の盟主として岸田総理と対決、一気に政権交代に持ち込むというシナリオを描いているのではないでしょうか。それは彼女が国会議員初当選時に在籍していた日本新党の代表、細川護熙元首相が8党連立政権の首班に担がれた構図と同じです。

 ただし、それは“あの出来事”を思い出すとハードルは高そうです。2017年10月の総選挙で、小池氏は「希望の党」を創設し、当時野党第一党の民進党を抱き込んで政権交代にリーチを掛けました。しかし、“(安全保障などの基本政策で一致しない人は)排除する”という旨の発言により失速。政権交代は失敗に終わりました。“排除された”側が立憲民主党を創設し、現在野党第一党になっています。同党の幹部たちは、今なお小池氏に怒っており、彼らと合流するのは容易ではないでしょう。

腹心の部下が出馬を表明。小池氏の決断は?

2017年6月、「都民ファーストの会」総決起大会で小池百合子氏に寄り添う荒木千陽氏
2017年6月、「都民ファーストの会」総決起大会で小池百合子氏に寄り添う荒木千陽氏

 これを執筆している3月1日、都民ファーストの会代表の荒木千陽都議が、参議院選東京選挙区出馬を表明しました。荒木氏は、かつて小池氏の公設第一秘書を務め、同じ家に同居していたこともあった腹心の部下です。

 小池氏が参院出馬を選ぶなら、残された焦点は、名前が売れている有名人が圧倒的に当選しやすい全国比例区。1議席を確保するのに120万票が目安ですが、小池都知事は一昨年の都知事選で何と366万票を獲得。2つの選挙は別物ながら、彼女一人で3人の当選者を出せる皮算用です。

 実は、先月1日に亡くなった、あの石原慎太郎元都知事の初当選は参院選全国区でした。未だに史上最高として燦然と輝く301万票を獲得し、一気にスターダムにのし上がりました。彼女が都知事の職にあるだけでは醸し出せない、強烈なインパクトを国民に植え付ける効果も狙えます。

 この戦略なら立候補表明は、ドクターと相談しながら6月第1週の都議会閉会日まで留保でき、体を労わって当選できます。都知事の座を自民党に返上した上、東京選挙区で自民党候補との抗争を回避し、恩も売れて理に適っています。果たして本当に参院選というルビコン川を渡り、あの性根を据えた本気モードに転換するのか。夏が近付くにつれ、またもやお茶の間の耳目を引きそうです。