“きょうだい児”の思い

 介護やケアの対象は親だけではない。大阪府で暮らす清崎鈴乃さん(22)は、障害のあるきょうだいがいる大学生らが語り合う場『かるがも〜学生きょうだい児の会』(以下、かるがも)を起ち上げた。障害のあるきょうだいがいる人は「きょうだい児」と呼ばれる。鈴乃さんはきょうだい児であり、ヤングケアラーでもある。

 かるがもでは、同じ境遇にある同世代との交流や意見交換をしているが、コロナ禍の現在はオンラインで集いを開いている。海外からアクセスをする人もいるという。

鈴乃さん主催の「かるがも」の会合は現在、オンラインで開催。全国から参加者が集う
鈴乃さん主催の「かるがも」の会合は現在、オンラインで開催。全国から参加者が集う
【グラフ】中学生は約17人に1人…ヤングケラーの割合

「オンラインとはいえ、実家に住んでいると言いたいことが言えないこともあります。そのためチャット機能を利用するなど工夫しています」(以下、鈴乃さん)

 現在、大学4年生の鈴乃さんは、知的障害と自閉症のある弟の陽斗さん(19)を小学生のころから支えてきた。

「障害があるとわかったのは弟が3歳のとき。ケアも私にとっては日常で、ごく自然なことでした。いつも弟と一緒にいるのが当たり前でした。母子家庭ということもあり、学校の送り迎えをするのも自分しかいない。学校での様子が心配になって、弟がいる支援学級に見に行ったりしていました」

 鈴乃さんが行ってきたのは、介護というより、情緒面のケアや気遣い、見守りといったことが中心だ。家族の世話に追われていると自分の時間がなくなり、大人でさえストレスを抱えやすくなってしまう。鈴乃さんはどうしていたのか。

「親には、やりたいサッカーをさせてもらっていました。毎日練習があるわけではないし、近所に住んでいる祖父母が家に来て、弟を見てくれたこともありました。ただ試合中、集中していたのに、ふとした瞬間に“今、家の中は大丈夫かな”と心配することもありました」

 きょうだい児の家庭では親の目が障害のある子に集中しやすいため、ほかのきょうだいが疎外感を抱くことが珍しくない。

「時々そう感じることはありました。しかし、そういう気持ちよりも、母親の接し方を通して、弟へのサポートが必要だと客観的に見ることができました。母親が頑張っている姿を見ていたので、自分も頑張りたい、母親を助けたいという気持ちのほうが強かったかもしれません」

 中学生になると、陽斗さんの入浴介助をするようにもなった。

鈴乃さん(右)と陽斗さん。幼いときから弟のケアは日常で「普通のこと」だった
鈴乃さん(右)と陽斗さん。幼いときから弟のケアは日常で「普通のこと」だった

「身体を洗うときに弟が自分でやると、なでているみたいな感じで、清潔を保持するという意味では難しい。

 やはり(異性のため)抵抗を感じることもありましたよ。でも、母親だってそれは同じ。家族の中に入浴介助できる人は女性しかいません。“今日は鈴乃と入る”と言って、弟に指名されることもありました」

 今春、大学を卒業する鈴乃さんだが、陽斗さんの将来についてはどう考えているのだろうか。

「自分はどう関わるんだろうかって勝手に考えています。弟がやってみたいこと、行きたい場所もあるでしょうし、私も何か一緒にできたらと思っています」

* * *

 ヤングケアラーを取り巻く問題を解決するには、認知度を高めつつ、当事者の声を聞くことが重要となる。埼玉県では11月を「ケアラー月間」とし、認知度を16・3%('20年度)から、'23年度までに70%にすることを目標として掲げている。

「ハンドブックを作成、小学校4年生以上に配布し、いくつかの学校で『ケアラーサポートクラス』を設け、授業もしました。コロナ禍でもあり、オンラインサロンも行っています」(前出・吉良県議)

 当事者がヤングケアラーと自覚し、支援を求めている場合はどうすべきだろうか。前出の田中さんはこう話す。

「ケアラー本人が安心して話せる拠点が求められています。しかし、身近な相談窓口や拠点が整備されているとは言いがたい状況です。神戸市や江戸川区では、ヤングケアラーの支援窓口を明確にしています。ケアラーが安心して話せる場や必要な支援につなげる場を地域社会の中でつくっていく必要があります」


取材・文/渋井哲也 ジャーナリスト。長野日報を経てフリー。若者の生きづらさ、自殺、いじめ、虐待問題などを中心に取材を重ねている。『学校が子どもを殺すとき』(論創社)ほか著書多数