“探偵ごっこ”で徹底捜索

 岡野美千代さん(77)は、さらに熱いハートの持ち主だ。スタッフが入所者と面談する時間は短いと20分。長くても1時間だが、岡野さんはなんと7時間ぶっ続けで話したことがある。相手は、街中で刃物を振り回して捕まり執行猶予になった30代の男性だ。

「私は人間が好きなんです。とことん付き合うのが大好きなんです。7時間のうち、ほとんどが彼の生い立ちの話でしたね。お母さんがこうだったとか、おばあちゃんに“何しに来た?”と言われてつらかったとか。私でよかったら吐き出してという感じです。私は相手の話を聞いているだけなので、あんまり疲れないですよ(笑)」

 大らかに笑う岡野さん。内装会社を35年経営していたが後継者がおらずM&Aで手放して、今は学童保育をしている。長年ボランティアで保護司もしており、面倒見のよさに感銘を受けた協力雇用主が「岡野さんに似ている人がいる」と会わせてくれたのが大塩さんだった。

 思いついたら即行動に移すあたり、岡野さんと大塩さんは息がピッタリ。何度も2人で“探偵ごっこ”をしたと、事の顛末を話してくれた。

 ある日突然、姿を消してしまった50代の男性がいる。男性は詐欺罪で服役後、「止まり木」に滞在していたが、洗濯物も干しっぱなしのままいなくなった。裁判記録を頼りに、2人で男性の郷里に行って聞き込みをしたが、何の成果もなかった。間もなく警察から男性が放置自転車を盗って逮捕されたと連絡が入る。微罪だが執行猶予中だったので実刑に。出所した後、男性は再び「止まり木」に来た。

「求められる限り、いつまででも話を聞いてあげたい。吐き出させてあげたい」と岡野さん 撮影/伊藤和幸
【写真】村松さんが、日々の反省や心情の変化を綴っているノート

 ところが、2度目もまた、洗濯物を干したままいなくなってしまう─。

「今度は犯罪に巻き込まれたのかも」

 心配になったが、保護観察所は動いてくれない。2人で捜しに行くと、男性をよく知る社長に会えた。その社長も一緒にあちこち捜してくれたが見つからない。

 しばらくすると男性はまた警察に捕まった。弁護士から連絡がきたが、全く同じことの繰り返しだったので、もう「止まり木」では手に負えないと判断して、3度目は断ったという。

 こうして捜しに行く費用は自腹だ。時間も手間もかかる。岡野さんはほかの入所者に対しても、早朝から通勤する姿を見て寒かろうと冬物のジャンパーを買って届けたり、病院への送迎をしたり、ボランティアの域を超えて寄り添っている。どうしてそこまでできるのかと聞くと、幼少期の思い出を話してくれた。

 岡野さんの父親は警察官として北朝鮮に赴任していた。駐在所に留置されている現地の人を殴ったり蹴ったりしており、そんな夫のふるまいを見て心を痛めた母親は、バレないようこっそり熱いスープやお菓子を差し入れていた。

 岡野さんが1歳のときに終戦。一家で故郷の鹿児島に引き揚げてきた。数年後に父親は亡くなったが、岡野さんは母から北朝鮮時代の話を聞かされており、権力を振りかざす父親が大嫌いだったという。

「罪を犯した人たちが駐在所を出るときに“奥さんありがとうございました。アイゴー”と泣いて別れを惜しんでくれたと、母親が言っていたんです。母はただの田舎のおばさんだけど、“カッコええなー!”と。私は絶対に、母親みたいになりたいと思ったんですよ」