誰もいないはずの場所で写っていたのは

 その一方で、「心霊写真はよく撮れますね」と小関さんはあっけらかんと話す。

心霊スポットとして有名な〇〇城跡を訪れたときのこと。ここにある鳥居は夜にくぐってはいけないといわれているのですが、4人組で参加されたお客様のおひとりがくぐってしまいました。そのときは何ともなかったのですが……」(小関さん)

 ツアーでは、記念として巡礼スポットで写真撮影をすることが決まっている。後日、その4人組が写った写真を見ると。

「鳥居をくぐった男性だけ、首から上が写っていなかったんです」(小関さん)

 また、写真や動画が撮れていないということも珍しいことではなく、運転する竹内さんは、「“撮れてない!”と驚く方も多い。でも、私は“またか”という感じです」と苦笑する。しかし、写ってはいけないものが写るケースもあるのだ。「ツアーに入っている場所なので細かくは言えませんが」と、声を潜めて小関さんは話す。

「女性が首つり自殺をしたといわれている螺旋階段があるんです。そこは立ち入り禁止になっていて、扉もしっかりと施錠されています。なので、ツアーで回るドライバーも離れた場所でタクシーを止め、その場所の“由縁”をお客様に話していました」

 そこで撮影した写真を見ると─。

「画像の真ん中、つるされた女性のような影が見えませんか? 撮影したとき、誰もここにはいないことをドライバーもお客様も確認しています。でも、これって……」

 こういった体験は、実際に心霊スポットを下見する広報担当の小関さんも遭遇すると話す。

「埼玉県の某所を試走したときです。実際の巡礼ツアー同様、夜中に向かい、“出る”という噂の建物を訪れました。周辺に、ずらっと住宅が並んでいるのですが、その一軒に、部屋の中が丸見えの住居があったんです」(小関さん)

 下見は小関さんを含む、広報担当者3名で訪れたという。

「その住居をふとのぞくと、般若のような仮面が見えて。でも、よく目を凝らすと、本当に怒っている人間の顔のように見えるんです」(小関さん)

 憤怒の表情で、宙に浮かぶ人の顔─。それがなんだか理解することはできなかったが、小関さんだけではなく、同乗していたほかの2人も、しっかりとこの世ならざる怒りの顔を見た。

「一目散に逃げましたよ(苦笑)。本当に恐ろしい顔でした。後日、昼間に訪れる機会があったので、おそるおそる、あの家をのぞいてみたんです。すると、怒りの顔は見えなかったのですが、ひらがなで“どん”と書かれた文字が貼ってあって。一層、不気味に感じました」(小関さん)

 人々は、身の毛がよだつ体験を求めているのか、はたまた非現実のオカルトに娯楽を求めているのかわからない。だが、心霊スポットを訪れたい人は後を絶たないのだ。

「いろんな人がいますからね」

 ポツリと竹内さんが口を開く。

「人様の命を預かっている職業ですから、いろいろなことが起こります。現実的なことも非現実的なこともタクシー運転手は体験します。でも、霊感のない私は、やっぱり人間のほうが怖いかな(笑)」(竹内さん)

 “幽霊の正体見たり枯れ尾花”という言葉もある。だが、説明できない現象があることも事実。信じる、信じないはあなた次第─。

〈取材・文/我妻アヅ子〉