農作業の健康効果

 さらに、思いがけない効果もあった。

「それは足腰が鍛えられるということ。一切農薬を使っていないので、雑草は天敵。私は草抜きを立ったまま、中腰の姿勢でやるので、太腿の筋肉に大きな負荷がかかるんです。つまり、スクワットと同じ効果がある。それを3時間続けるのだから、ジムに3回通ってやる運動を1回でやるようなもの」

 やればやるほど楽しくなり、2年目には田んぼでの稲作にまで挑戦した。『道の駅あぐりーむ昭和』で10年以上、駅長を務める倉沢新平さん(72)が言う。

「森永さんは有名な方なんだけど、話すとすごく気さくな人。いつもジャージで来ていて、草むしりをしているうちに、お尻がはだけたりする。まるで普通のおっさんという感じでしたね(笑)」

 ところが'20年の春。コロナ感染拡大に伴い、昭和村に東京からの来訪者は入れなくなってしまった。

「私はやる気満々だったんだけど、どうしようと困っていたときに、カミさんがうちの近所で耕作放棄になっていた30坪の畑を借りてくれました。畑を貸してくれたおじいちゃんが亡くなったので、今は別の畑でやっています」

トカイナカで年金13万円の暮らし

「トカイナカ」という言葉がある。これは「都会」から程よく離れていて、しかも通える距離にある「田舎」を指した造語。都会の利便性と自然豊かな環境を両立できるライフスタイルとして近年、注目が集まっている。

 ノンフィクション作家の神山典士さん(62)は、埼玉県ときがわ町の古い民家を「トカイナカハウス」として活動の拠点とし、今年6月には『トカイナカに生きる』(文春新書)を上梓している。そのきっかけとなったのが、森永さんだった。

「2年半ほど前に森永さんにインタビューしたんです。そのときのテーマが“人はいかにして幸せになるか”。所得だけでなく幸福度も含めて判断すると、トカイナカという選択になると話されていたんですね。だから、森永さんの提唱するマイクロ農業は、生き方の哲学でもあるんです」

 生産性が叫ばれ、いかに効率的に稼ぐかということが重視される現代。そんななかで森永さんは、自身の取り組むマイクロ農業を「これほど非効率で生産性のないものはない」と言い切る。

「天気ひとつをとっても思いどおりにいかない。作物は狙ったとおりに収穫できるとは限らない。予測不能。だから楽しいんです。楽しいことって大抵が非生産的だし、効率の悪いことばかりですよ」