鉄道会社からしたら時間の約束はない

「ここ2年、コロナの影響により電車も非常に空いていて、あまり遅延が起きていなかったということも大きいと思います。しかし、朝や夕方から夜にかけての混み合い乗り降りにも時間がかかるラッシュ時などはやはりどうしても電車は時間通りに走らないのが実情です。しかし、その感覚が電車や駅が空いていたこの2年で薄れた人も少なくないのかもしれません。そのため、遅延に敏感になっている人もいるでしょう」

 最近は各鉄道会社が提供するアプリによってリアルタイムで電車がどこを走っているか、何分遅れているか等の情報をピンポイントで確認できるようになった。

「ただ、すべての遅延が表示されるわけではなく、だいたい5分以上の遅れしか表示されません。5分以下の遅延は“見えない”。調べてみると“サイレント遅延”と呼ばれているのは5分前後の遅れを指していることが多いようです。ここまでリアルタイムで遅延がわかるようになったからこそ、少々の遅延、細かい遅延も気になってしまうという面もあるかもしれません。

 昔は30分や1時間といった遅延でないと情報は出ませんでした。15年ほど前から15分以上の遅延は発信しようというのが一般的な考えになりました。数年ほど前からアプリが広まって5分程度の遅延が発信されるようになり、じゃあそれ以下の遅延はどうするかというとまだ見えない。ただ、1分単位で遅延情報を出しても、そこまで乗降客に実害はないと鉄道事業者は思っているでしょう」

 サイレント遅延で“被害”に遭ったという人の多くは、「乗り換えができなかった」と言っている。

「数分の遅れで乗り換えができなかったというのは、そもそもで乗り換えのプランとしてちょっとキツキツ過ぎるんではないかと正直思いますね(苦笑)。利用者からすれば約束してくれている時刻表に沿って動いてくれという話ではありますが……。ただ、鉄道会社からしたら、“時間の約束”はありません。あくまでA地点からB地点まで確実に輸送しますという対価で運賃を取っており、それを“何分で”であったり、“遅れずに”という約束はない。新幹線の特急券も2時間以上遅れた場合に払い戻されますが、逆に言えば2時間までの遅れなら、料金はそのままなわけです」

 運行情報や乗り換え案内など、列車を取り巻く環境はひと昔前に比べたら格段に便利になった。ネットやアプリを見れば、“どの電車に乗ればいいのか”、“いつ乗れるのか”、そして“遅れているのか”が瞬時にわかる。

「かつては大幅な遅れでないと発表されませんでしたが、現代では公式のいろいろな媒体で情報提供がされています。しかし、それによって“情報はあって当然”という意識のなかで、5分程度の遅れは“見えない”。だからこそそこに不満が生まれているのかもしれませんね」

 余裕を持って家を出ましょう。と言ってもなかなか人間それができないもので……。