訴えを起こせば働き続けられない

「刑事よりも民事のほうが提訴のハードルは低いといわれていますが、民事では立証責任は厳しい。こうした判決を受けると、暗い気持ちになります」

 加納さん側の代理人弁護士は「高裁判決が納得できないのは上司のわいせつを否定した点のほか、セクハラを主張した人が会社で働き続けられないことを事実上、容認した点です」と指摘した。

 厚生労働省は、職場におけるセクシュアルハラスメントについて、「職場」において行われる、「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応により、労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること、としている。

 裁判では証拠を提出できるかが鍵になる。争った場合、客観的証拠がないと、被害者がセクハラを証明するのは難しい。企業側としては、予防や再発防止が強く求められる。労働施策総合推進法によって2022年4月から中小企業に対しても、セクハラ防止措置を義務付けた。これまで以上に企業倫理も問われる。

 加納さんは「二度と私と同じような人が出てきてほしくない」と話している。

取材・文/渋井哲也

しぶい・てつや 1969年生まれ。新聞記者を経てフリーに。若者のネット・コミュニケーションや学校問題、自殺などを取材。著書に『学校裏サイト』(晋遊舎)、『気をつけよう!ケータイ中毒』(汐文社)、『自殺を防ぐためのいくつかの手がかり』(河出書房新社)など