目次
Page 1
ー セクハラを「まったく覚えていない」
Page 2
ー 被害者の訴えは認められない現状
Page 3
ー 訴えを起こせば働き続けられない

 先月、兵庫県でセクハラ訴訟の控訴審判決が下りた。一審では「わいせつが認められる」とされ、被害者の勝訴だったが控訴審では「わいせつは認められない」と一転敗訴。いったい何があったのか─。「納得ができない」と声を震わせる被害女性に話を聞いた。

「電車内で上司から左の首筋にキスされました。そして下着の中に手を入れて左胸を揉まれました。突然のことだったので、助けを求める声が出ませんでした」

 兵庫県内の企業でアルバイトとして働く加納美幸さん(仮名・43)が、上司の男性からわいせつ行為を受けたとして上司と会社を訴えていた裁判が終結した。一審で裁判所は女性の性的自由を侵害したとして、わいせつ行為を認定したが、訴えのすべてが認められたわけではなかったため加納さんは控訴する。しかし二審ではわいせつ行為そのものが認められず、逆転敗訴した。その後、最高裁に上告したが、棄却。判決は確定した。事実認定の難しさを示す裁判だった。

 訴状によると、被告の上司や原告の加納さんらは職場で開く忘年会の下見をした。加納さんは希望していなかったが、上司が加納さんの参加を決めた。下見を終えた午後11時ごろ、駅構内で上司は加納さんの左の首筋にキスをした。電車内でも上司は加納さんにキスをし、胸を揉んだ、というのが加納さんの主張だ。

 翌日、加納さんは精神的なショックを受けていたが、出勤する。上司に一連のわいせつ行為の記憶があったかを確かめるためだ。結果、加納さんは上司にセクハラの記憶があると判断。しかし上司と会話をしたことで、嫌な記憶がよみがえりその後の5日間は精神的なストレスで十分な睡眠が取れず、会社を休まざるをえなくなる。

セクハラを「まったく覚えていない」

 一方、一審、二審ともに会社側や上司はわいせつ行為を否定した。上司は「被害を受けていたならば、なぜすぐに被害届を出すなり、会社に相談しなかったのか」「していたら覚えている」と主張。会社の代表者も「何度も当該の社員に事情を聞いたが、わいせつ行為をしていません」と証言。

「忘年会下見翌日はセクハラを覚えていたそぶりをしたのに“まったく覚えていない”という証言もどうかと思います」(加納さん)