試食の感想がネーミングの由来に

 こうして、試行錯誤の末に生まれた『ほぼカニ』。遊び心あふれる、親しみやすいネーミングの経緯について、マーケティング室室長・加藤諒子さんは次のように振り返る。

「当時の村上健社長(現会長)が商品を試食した際につぶやいた“ほぼカニやな……”というひと言が、商品名の由来となっています。

 ほかにも『ZY(ズワイ)』や『カニゴールド』、『でもカニ』、『なんかカニ』といった候補が挙がっていたのですが、商品のコンセプトを的確に表しながら、インパクトが大きく語感もかわいい『ほぼカニ』でいこうということになりました」

 業界全体では練り物商品の低迷が続くなか、発売から8年を経た現在、『ほぼカニ』は当初の約5倍の販売数にまで成長を遂げた。

 昨年12月には、優れたネーミングを選出・表彰する『日本ネーミング大賞2022』で『ほぼカニ』が大賞に選ばれるなど、メディアやSNSでも度々話題を集めている。

 マーケティング室の荒井紅美さんは、人気の理由を次のように分析する。

SNSでは“パッケージに書かれた『※カニではありません』の注意書きまでおもしろい”という感想や、“本物のカニに見せかけて食卓に出したら、誰もカニカマと気づかなかった”という声が寄せられるなど、若い世代やお子さんなどにもご好評いただいています。

 “真面目にふざける”というカネテツの社風をまさに体現したような商品で、食卓でのコミュニケーションが生まれるきっかけになれているのかなと思います」

カネテツ「ほぼシリーズ」

『ほぼカニ』のヒットを受け、さまざまな高級食材を練り物で再現する「ほぼシリーズ」の新企画もスタート。まず白羽の矢が立ったのが、ホタテを模した『ほぼホタテ』だ。

「実は、ホタテ風かまぼこの構想は『ほぼカニ』に着手する以前からあったんです。かつて弊社で商品化されていたこともあり、当時の技術や『ほぼカニ』のノウハウをふまえて、新開発に取り組みました。

 形状については、『ほぼカニ』の製造過程でかまぼこを成型する際、ホタテのような低い円柱形の“失敗作”がポロポロと生まれていて、それをヒントとして生かしながら研究を進めました」(宮本さん)

 同社はその後も『ほぼエビフライ』や『ほぼカキフライ』など、練り物を使った新商品を続々と発表していった。

「家庭で作るのが大変な揚げ物メニューも商品化したいという思いがありました。2016年に発売した『ほぼエビフライ』は原料にエビを使っておらず、甲殻類アレルギーの方でも食べられます。

 また、食あたりが不安だという声の多いカキフライも、練り物で再現した『ほぼカキフライ』なら安心してお楽しみいただけます」(加藤さん)

 近年は『ほぼうなぎ』や『ほぼいくら』といった、さらなる高級食材の代替商品も誕生。これらの開発の裏には、食に関する社会課題を解決したいという思いが隠れている。

世界的に絶滅が危惧され、値段も高騰し続けているウナギは、商品化の要望が多い食材でした。『ほぼうなぎ』は限りある水産資源を守りながら、日本の食文化を次の世代につなげるきっかけになればという思いが込められた商品です。

 また、イクラの食感を再現した『ほぼいくら』は卵アレルギーの方や生ものを控えている方にもオススメです。

 ほかにも驚くような商品開発が進んでいるので、今後の発表を楽しみにしていてください」(荒井さん)

 練り物の特性を生かし、変幻自在に“ほぼ食品”を生み出し続けるカネテツ。食料価格高騰の時代に、今後もおいしさとクスッと笑える食のエンタメを提供してくれそうだ。

カニ、うなぎ、いくら……高価なシーフードをもっと身近に