目次
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ー 日本一コスパの悪い児童養護施設『子供の家』 ー 18歳を境に自立へ急き立てられる現実
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ー 元利用者に殺害された施設長の死 ー 未来を描けるロールモデルの存在
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ー 紆余曲折でつかんだ「福祉への道」
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ー 子どもが「脱走」する施設の実態
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ー 現場の声で制度は変えられる
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ー 親を責めても虐待が減らない理由

 東京都清瀬市──。昔懐かしい雰囲気の漂う商店街を抜けると、都営アパート群が現れる。その先のこんもりとした森の中に、児童養護施設『子供の家』はあった。

 広々とした敷地内には白い壁の建物が4棟、木々に囲まれた裏庭には色鮮やかな遊具やサッカーのゴールなどが点在し、子どもたちの遊び場なのだとひと目でわかる。

日本一コスパの悪い児童養護施設『子供の家』

 厚生労働省によると、親元から離れ、児童養護施設などで暮らす子どもは2021年3月時点で約4万2000人いる。児童養護施設は、太平洋戦争で生まれた「戦争孤児」を収容するためにつくられたのが始まりだ。現在では、親の貧困や病気などのさまざまな事情により、家庭で暮らすことが難しくなった子どもを保護者に代わって養育するケースが圧倒的に多い。

 中でも、親の虐待を理由に入所する児童の割合は、年々上昇している。虐待などにより児童相談所に保護された子どもは、一時保護所に滞在した後、各地の児童養護施設に振り分けられる。

子どもたちにすれば、ある日突然、家族と離れ離れになり、学校や地域からも引き離されて、見知らぬ場所の施設に身を置くことになる。いわばマイナスからのスタートです。子ども自身も、支える施設の職員も頑張ってはいるけれど、それをプラスにかえていくのは並大抵のことではない。とてつもない時間と労力がかかります。だから『子供の家』は日本一コスパの悪い運営の児童養護施設だといえるかもしれません」

 そう語るのは、'14年から『子供の家』で施設長を務める早川悟司さん(53)だ。

 ここでは現在、58人の児童や若者が生活を共にしている。生活棟は3棟あり、白塗りの一軒家に各ホーム5~6人ずつ、男女別に分かれて暮らす。1~2週間滞在するショートステイの利用も盛んだ。入所者のうち、18歳以上は15人。ひとり暮らしの練習をしながら支援を継続して受ける若者が少なくない。

18歳を境に自立へ急き立てられる現実

 児童養護施設に入所する子どもたちが何歳まで支援を受けられるのか、ご存じだろうか。児童福祉法では原則18歳まで、延長しても最長22歳とされ、それ以降は施設から退所し自立を求められる。

 しかし昨年、この年齢制限を'24年から撤廃することが決定した。今後は年齢で一律に線引きをすることなく、施設にいながら自立のための支援を受けられるように変わったのだ。

 こうした国の動きに先駆けて、『子供の家』では18歳以上の入所者にも継続した支援を行ってきた。そのため最近では、大学や専門学校などを卒業した後、22歳で退所し社会へ巣立っていくケースが目立つ。

三角屋根の施設にちなんで飾りも三角。「ここはあなたの家」と伝えている(撮影/齋藤周造)
三角屋根の施設にちなんで飾りも三角。「ここはあなたの家」と伝えている(撮影/齋藤周造)

 早川さんが言う。

「そもそも幼少期に適切な養育を受けられなかったという問題がある。そんな子どもをある日突然、大人の都合で施設に連れてきておいて、18歳になったから自立しろというほうがおかしい。年齢制限は撤廃しなければいけないと思っていました」

 年齢制限で施設を離れた子どもたちの中には、頼れる家族もなく、孤立や困窮状態に陥るケースが珍しくない。厚労省の実態調査では、児童養護施設を退所した子どもの約23%が赤字生活となっていた。虐待の経験から心身の不調を抱える人もいる。

 そうしたことから年齢制限は「18歳の壁」といわれ、児童養護の現場では長年にわたり問題視されてきた。