その壁がようやく撤廃されることになったわけだが、ここへ至るまでには、早川さんをはじめとする施設関係者の地道な働きかけがあった。実際、『子供の家』には、厚労省の担当者が何度も視察に訪れている。

「年齢制限の撤廃を訴えても10年前にはまったく話が通じなかった。隔世の感がありますね。それ自体はありがたいことなんですが……。ふと振り返ってみたら、誰もついてきていない(苦笑)」

 早川さんによれば、大半の児童養護施設では、相変わらず「18歳での自立」を迫る状態にあるというのだ。

「現行法でも22歳まで支援を延長できますが、実施している施設はきわめてまれです。ほとんどの子どもは高校卒業とともに、施設を退所せざるをえないのが実情です。

 東京都に以前、20歳を越える入所者が何人いるのか聞きました。すると当時、都内には60の施設があり、3000人の子どもなどが生活する中、20歳を越える入所者は12人という結果。うち8人は『子供の家』の入所者でした」

 なぜこうした事態になっているのだろうか。早川さんは「これには2つの理由があります」と言う。

「18歳以上にも支援を延長するとなると、新たな入所者も増える中では定員オーバーになり、施設側は部屋を余計に用意しなければいけない。収容場所不足の問題があるといわれています」

 虐待相談件数が増える中、保護された子どもを一時的に収容する一時保護所の定員は満杯に近い。特に都市部では逼迫している。

「そうした中で児童養護施設が定員オーバーだと、一時保護所にいる子どもが施設になかなか入れない。そのため“児童相談所が18歳以上への支援継続に後ろ向き”だという指摘もあります」

 これに早川さんは真っ向から反論する。

「箱が足りないなら、増やせばいいだけのこと。『子供の家』でもグループホームを増設したり、生活棟で受けていたショートステイを、新たに建てた別棟に移したりして、受け入れ可能な子どもの枠を広げました。そのため'17年には42人だった定員が、現在では58人になっています。

 金銭面での負担については『社会的養護自立支援事業』という制度のもと、22歳になるまで国や自治体から居住費、生活費などが補助されます。施設側にデメリットはないはずです」

 もうひとつの理由は、支援に携わる大人の意識にある。

子どもを支援するにあたり、多くの児童養護施設では高校卒業をゴールに据えています。そのため卒業後はどういった支援が望ましいのか、想定できていないんです。また高校生(18歳まで)と大学生(18歳以上)では、同じ入所者であっても生活サイクルや行動範囲が違う。だから“高校生と大学生を、同じ施設内で一緒に支援するイメージができない”という施設関係者もいます。

 これは要するに、初めての経験だから自信がないということ。やってみればいいんですよ」