実例(1)不妊治療だけが妊娠への“近道”ではない!

 Aさんは39歳。総合病院でタイミング法(排卵日を予測し、それに合わせて夫婦生活を持つ方法)を数回試みたものの妊娠に至らず、人工授精をすすめられ、気持ちがついてゆかず、「不妊ルーム」に相談に来ました。

 何度か通ううちに気持ちがリラックスしてきたAさんに、「人工授精そのものの妊娠率は5~8%と非常に低い。妊娠率を上げるには、その前後に夫婦生活を持つことですよ」

 とアドバイスしました。なぜなら、人工授精は、排卵に合わせて精液を濃度調整して子宮の中に入れること。つまり、人工授精を行うのは、タイミング的に妊娠しやすい時期なので、ここでさらに夫婦生活を持つことで、妊娠の確率を上げることができるのです。そこで人工授精できる病院を紹介したところ、1回の人工授精で見事に妊娠

 いちばん理想的なのは、人工授精で妊娠したのか、夫婦生活で妊娠したのかわからないことです。Aさんはこの典型的なケースでした。不妊治療を開始しても、夫婦生活と妊娠を切り離さないことが大切なのです。(放生先生)

実例(2)不妊治療だけが妊娠への“近道”ではない! 

 2年半もの間、不妊治療を続けていたBさん(39歳)。タイミング法3回、人工授精3回、顕微授精9回を行ったものの、1度も妊娠に至らず、「不妊ルーム」に相談にみえました。Bさんが不妊治療に投じた金額は、総額400万円。膨大な時間とエネルギーを注ぎ込み、疲れ切っている様子でした。

 AMH(抗ミュラー管ホルモン)とは、卵巣にどれくらいの卵子が残っているのかを示すもので、わかりやすく言えば「卵巣年齢」を意味します。BさんのAMHの値は閉経している数値と同等でした。AMHはあくまでも指標のひとつであり、数字で一喜一憂する必要はないのですが、一刻も早く体外受精を、と焦るBさんに卵巣ケアの話をし、サプリメントや漢方薬そして亜鉛製剤を処方してケアを続けました。

 血液検査によりホルモンの値も改善してきたので、信頼できる医療機関を紹介し、体外受精をしたところ、1回で妊娠(現在、妊娠7か月)。AMHが低いと落ち込む女性も多いのですがBさんの場合、AMHが低くても卵巣が元気になれば妊娠できることを示してくれたよいケースでした。(放生先生)

 もっと知りたい人は──『令和版ポジティブ妊娠レッスン』(主婦と生活社)赤ちゃんが欲しいすべての人へ、妊娠への向き合い方を放生先生が指南。

教えてくれたのは……

こまえクリニック院長 放生勲先生 ●ほうじょう・いさお
1987年、弘前大学医学部卒業。1999年、東京都狛江市にこまえクリニック開院、院長に。自ら経験した不妊治療に対する疑問から、内科診療のかたわら「不妊ルーム」を開設。内科的なアプローチで、これまで2100組以上のカップルを妊娠に導く。HP:不妊ルーム(https://humansofplovdiv.com/)

〈取材・文/樋口由夏〉